地獄船
「大丈夫だ浩成。頑張れ!」


本当は紅組に勝つつもりなんてないけれど、とりあえず応援しておくことにした。


浩成は涙目のままステージに立つと、1年前映画の主題歌になった曲を選んだ。


CMなどでも使用されていたため、サビくらいはみんな知っている曲だ。


イントロが終り、浩成がマイクを強く握り直す。


……可もなく、不可もなくと言った歌声が聞こえ始めた。


ミヅキと比べれば一般のカラオケと同じレベルだ。


決して下手ではないけれど、ミヅキの後ということで小さなミスでも大きく感じられる。


よし、この調子なら綾がドヘタでも紅組が勝てる可能性はある。


俺が盛大に音程を外して歌えば、きっと大丈夫だろう。


歌い終えた浩成が、がっくりと頭を垂れて戻って来た。


「ダメだ。全然ダメだった……」


確かにダメだった。


だけど綾に比べれば神レベルの上手さだった。


「大丈夫だ浩成。ほら、鬼たちは拍手してくれてるじゃないか」


ミヅキの時には起こらなかった拍手が微かに聞こえて来る。


微かに、だけど。
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