俺様外科医との甘い攻防戦

 言葉を続けられず、ぎこちない沈黙が流れる。
 ぎこちないと思っているのは、私だけだろうけれど。

 現に、「かれこれ何年の憧れだ。それはそれですごいな」と感心している。

 久城先生のスーツの内ポケットから、振動音が聞こえ、スマホを取り出した。

「時間切れか。呼び出しだ」

 画面を見て呟いた顔は、残念そうに見えて。

 錯覚だよ。それとも、そうやって気を持たせる素振りが上手いだけ。

 久城先生はスマホ片手に席を立つ。
 個室だから出て行きはせず、少し離れた場所で電話を取った。

「はい。久城です」

 様子を伺うように見つめる私に、片手を上げ非礼を詫びている。
 それさえも必要ないのに。

 どうして?
 私に気のある素振りを見せたところで、利点なんてなにもない。

 電話を終えた久城先生は、早口で要点を告げていく。

「緊急搬送された患者のオペが入りそうだ。俺は病院に戻る。送れずに申し訳ないけど、食事は最後まで良かったら。精算は俺に来るようにするから、好きに飲んでくれて構わない」

 これが女性を置いて帰る久城先生の常套句なのかな。
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