眼球
妄想元年
偉い人が死んだ
平成が終わりを迎えた
お菓子の封が開かなかった
飼い猫はニヤアと鳴いた



彼は新元号を命名した後、暫く部屋の隅のベッドから垂直に真上を直視。
ぼうーっと天井に焦点を合わせ、ジリジリとその非力なレンズのピントを整える。そして今夜も奇妙な虫との攻防に凌ぎを削っていた。


その虫、姿を現しては消え、消えては姿を現し、例えるならば遭難者、まるで救助を求めるモールス信号のようにただ点滅を繰り返しているのだが、どうやら遭難者は左側の目玉の中でのみ発見が可能なカラクリを携えていた。

「そこに何かすらの理由があるはずだねえ。」

と、彼は考え、仰向けに、頭をガリガリと掻き毟り、垂直に天井を行く年来る年ぼうーっと凝視していたのでした。
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