溺愛音感

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マキくんの車とは雲泥の差の乗り心地に、どこか壊れているんじゃないかと不安が拭えないまま到着したヨシヤの実家は、立派な門構えの日本家屋だった。

商店街から通りを二本挟んだ裏路地には、似たような風情ある家が並んでいる。
木造の門、塀代わりの生け垣、引き戸の玄関、どれもが珍しくてついキョロキョロしてしまう。


「ただいま、かーちゃん！　友だち連れて来た！　カレー食わせて！」


玄関を入れば、奥からエプロン姿のふくよかな女性が現れた。


「おかえり、ヨシヤ……あらぁ、美湖ちゃんじゃないの！　それと……あらまぁ……お人形さんみたいにかわいい子ね。こんばんは？　何ちゃんかしら？」

「こ、こんばんは。ハナです……」

「ハナちゃん！　名前もかわいいわねぇ。わたしは、ヨシヤの母親のミツコよ。さ、どうぞあがってちょうだい」

（ミツコ……だから、ミツコカレー……）


謎が解けてすっきりした。


「お、お邪魔します……」


美湖ちゃんの見よう見まねで脱いだ靴をそろえ、廊下を奥へと進む。

中は、あとからリフォームしたのか和洋折衷の造り。
キッチンは洋風だが、リビングは畳敷きの和風。


「リビングに用意する？」


ミツコさんの問いに、美湖ちゃんが気遣い無用と手を振る。


「キッチンでいいです！　その方が面倒じゃないですし。ね？　ハナさん」

「うん」


ダイニングテーブルは、一枚板から作られたと思われる立派なもの。
椅子は四つあるが、一つずつ異なる形と素材で作られている。

不格好にも見えるが、座り心地がとてもいい。

美湖ちゃんとヨシヤが本日の練習についてアレコレ意見を交わしている間に、スパイスのいい匂いが漂い始める。

ほどなくして、真っ白いごはんにゴロゴロと大きめの野菜が入ったカレーをかけたお皿が目の前にやって来た。


日本のカレーライスはコンビニのものを食べたことがあるけれど、それとはだいぶ様相がちがう。


（美味しそうな匂い……）