溺愛音感



「そうか。よかったな? いい友だちもできたみたいだし」


大きな手がポン、と頭を軽く叩く。


「柾と上手くいってるようで安心した」

「上手く……いってるのかな」

「ん? 何か気になることでもあるのか?」

「気になる……というか……マキくんのこと、知らないなと思って」

「それは……柾の過去という意味か?」

「過去も、現在も」

「現在のことは、ハナが自分で確かめるしかない。過去のことは……本人に訊くのが一番だ。特に、柾のような立場だと、友人を装って悪意ある嘘や噂を吹聴する人間も寄って来るからな」

(やっぱり、直接訊くしかないか……答えてくれるとは思えないけど。答えてくれないということは、話したくないということで、引き下がるべきサインなんだけど……)

「着いたぞ」

「え?」


顔を上げれば、目の前には見慣れたエントランスがある。
ぐるぐる考えている間に、マンションに到着していたようだ。


「あ、ありがとうございました!」


慌てて車を降りようとしたら、「ハナ」と呼び止められる。


「相手のことをもっと知りたい、もっと理解したいと思うのは、普通のことだ。悪いことではない。素直に、思ったままを言えばいい」

「……?」

「柾は、自分のことを話すのに慣れていない。だから、ハナから訊いてやってほしい」

「う、うん……」

「ハナになら、きっとちゃんと答えると思う」

「そうかなぁ? いつも質問に質問で返されるけど……」

「照れくさくてじゃれてるだけだ」

「そ、かなぁ……」


(じゃれているというより、こっちがあしらわれているような……?)

とても太刀打ちできそうにないと肩を落としたわたしに、雪柳さんはニヤリと笑って悪知恵を授けてくれた。




「どうしてもダメそうなら、椿に訊くと言えばいい」



< 156 / 364 >

この作品をシェア

pagetop