溺愛音感


「ねえ……」


何だか、このまま見逃してはいけない気がした。

しかし、わたしの追究を避けるように、マキくんはベッドの上に並ぶ数々の看病グッズへと視線を向け、話題を変えてしまう。


「ハナは、昨夜からずっと付いててくれたのか?」

「う、うん。いつの間にか寝ちゃってたけど……」

「面倒をかけて、悪かったな。もう大丈夫だ」

「でも、二、三日ゆっくりした方がいいって、立見さんが言ってたよ?」

「わかってる。ただ、汗をかいて気持ち悪いんだ。シャワーしてから、もうひと眠りする」

「じゃあ、わたしが洗ってあげるっ!」


「…………」


お世話係としての仕事第一弾だと張り切って申し出たのに、なぜかマキくんはぎょっとしている。


「ダメ?」

「……ハナがこんなに積極的だなんて、まだ熱があるのか? それとも、これは夢か? とにかく、気が変わらないうちにさっさと……」


マキくんは、何やらぶつぶつ呟いていたが、病人とは思えない素早い動きでベッドを下りた。


「バスルームへ行くぞ。早くしろ、ハナ!」


心なしか、ウキウキしているように見えるのは気のせいだろうか。

自分だけでなく、わたしまで手早く脱がせたマキくんは、バスルームに入り、シャワーで軽く汗を流すなり、わたしの手にスポンジを握らせた。


「頼んだぞ、ハナ」

「う、うん……」


長い首、広い肩、胸、筋肉質の腕。後ろへ回り、背中、引き締まったお尻から長い足へ。
そこまで洗い終えて、再び正面に相対したところで、ちらりとマキくんの顔を見上げる。


「あのぅ……」

「ちゃんと洗え」

「でも……」

「何か不都合でもあるのか?」

「……ないけど」


ニヤニヤ笑うマキくんにむっとして、意を決し、ひざまずいた。

なるべく目線を下に向けたまま、徐々に下から上へと洗い進め……、
直視できなくなる。


(む、無理……やっぱりこれ以上は、無理ぃぃっ!)


「マキくぅん……」


恥ずかしさのあまり泣きそうになりながら顔を上げれば、なぜか顔を赤くしているマキくんと目が合った。


「……もういい」

「え?」

「予想以上にエロすぎる……」

「は?」

「いいから、寄越せ。あとは自分でやる。次は、髪を洗ってくれ」


手からスポンジを奪われ、ポカーンとしているうちに、マキくんは自分で身体を洗い終え、シャンプーのボトルをわたしに押し付けた。

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