溺愛音感


「そうやって、先延ばしにして、なし崩しで破談にするつもりではないだろうな? 柾」


王様でも常識人であるらしい松太郎さんは渋い顔をしたが、本性を隠したイケメン社長(毒舌)はにっこり笑う。


「結婚した後で、やっぱり合わなかったと気づくのは悲劇です。身内の離婚を二度も間近で見ていれば、慎重にもなります」

「そうかもしれんが、おまえはいままで女性と誠実な付き合いをしたことなどないだろうが?」

(これだけイケメンなら、モテモテだろうし、女遊びしまくっていてもおかしくない……)


軽蔑のまなざしを向けると、にっこり微笑まれた。


「過去に嫉妬してくれるほど、僕に興味を持ってくれたなら嬉しい限りだよ、ハナさん」

(「僕」って、誰? 過去だろうと現在だろうと、誠実じゃない人との縁談は破談にしてくれてかまわないんですけどっ!)

「ハナ。女性とのお付き合いに慣れていない人だと、女心がわからないものよ。恋愛経験の少ない女性は、経験豊富な余裕ある大人の男性との方が上手くいくわ」

(経験が少ないのは否定しないけれど、年上だからって……経験豊富だからって、上手くいくとは限らないじゃない……)


元婚約者の和樹も、年上だった。
会話上手で、女性の扱いを心得ていて、だから浮気するのも簡単で……。

古傷が疼き、唇を噛みしめて俯きかけたとき、わざとらしい咳払いが聞こえた。
顔を上げれば、俺様王子様が少しはにかんだ笑みを浮かべている。


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