溺愛音感


「ところで、コンマスの三輪先生と指揮者の友野先生は、まだか? できれば先に挨拶したいんだが……」


忙しい友野先生は、時々遅れて来ることもあるが、三輪さんはいつもちゃんと練習開始までには来ている。


「もうそろそろ……」


現れるはずだと言おうとした矢先、三輪さんと友野先生、美湖ちゃんとヨシヤが連れ立って現れた。


「こんばんはー! ハナさん……と柾さんっ!?」

「アニキ? なんで?」


目を丸くする美湖ちゃんとヨシヤを「黙れ」とばかりに一瞥したマキくんは、さっと名刺を取り出して、三輪さんと友野先生へ差し出した。


「先日は、お電話で失礼しました。いつもハナがお世話になっています」

「ああ、君がハナちゃんのイケメン婚約者。こんばんは、三輪です。ハナちゃんをお世話するというよりも、こちらのほうがすっかりお世話になっていますよ。ね? 友野くん」


三輪さんはニコニコ笑ってマキくんと握手しながら、友野先生に同意を求める。


「は、はいっ! あの、初めまして、友野です! 団創設の際には、寄附をいただき……しかも、今度はハナちゃんまで貸し出していただき、ありがとうござますっ!」


友野先生も、三輪さんに続いてマキくんと握手したが、よほど興奮しているのか握った手をブンブン振り回す。

そんな友野先生にも驚き顔ひとつ見せず、にこやかな王子様スマイルをキープするマキくんは、さすがだ。


「貸し出すもなにも、お二人にはいつもアドバイスいただいているとハナから聞いています」

「いやいや、アドバイスというよりも無茶な要求ばかりしてるよねぇ? 友野くん」

「ま、ええと……はい、そうですね。すみません。本来、オケがソリストに合わせるべきなんですけど、ハナちゃんはどんな要求にも対応してくれるから、つい甘えてしまって……」

「このまま芸術祭は、ハナちゃんに演奏してもらってもいいくらいだよ」

「えっ! み、三輪さんっ!?」

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