溺愛音感

ハナ、海へ行く

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疲れのせいで熱を出したものの、マキくんの献身的な看病のおかげで、翌日にはすっかり回復した。

しかし、熱が下がってからも外へ出ることを禁止され、今日で四日目。

シャワー（わたしを洗うことも含まれる）、朝食（優雅にベッドで食べた）、夜のうちに海外から送られてきたメールなどのチェック。

ルーティンワークをこなし、ベッドにいるわたしの横に戻って来たマキくんへ訴えた。


「マキくん……暇」

「病人は、大人しくしているのが仕事だ」


溜まりに溜まったストレスは、限界値に達しようとしている。


「もう熱もないし、病人じゃないと思う」

「熱が出ない病気もある」

「家にばっかりいるとストレスが溜まるの！　散歩に行きたい！」


ちょっと前までは好きなだけ引き籠りたいと思っていたけれど、いざそういう状況になってみて、自分がいかにアウトドア派か思い知った。

人生の大半を空の下で過ごしてきたのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。


「散歩か……」

「今日は、日曜日でしょ？　マキくんもお休みだよね？」


これまで観察したところ、土曜日は仕事をすることもあるが、日曜日は完全オフにしているようだ。


「ああ。一件、野暮用があるが。……そうだな、ついでにハナも連れて行こうか」

「連れて行くって、どこへ？」

「海浜公園だ」

「海浜……公園？」

「遊歩道があって、散歩に最適だ。泳げはしないが砂浜もある。存分に走り回れるぞ」

「走り回らないけど、海、しばらく見てないから行ってみたい」


今日は天気もいいし、潮風が気持ちよさそうだ。


「よし。そうと決まれば、さっそく準備だ。今日の散歩は、動きやすさ優先だな」


本日のコーディネートは、マキくんが淡いグレーのパーカーとジーンズ。わたしはオフホワイトのパーカーワンピースの下にスキニージーンズ。ふたりとも歩きやすいスニーカーというラフな格好だ。

わたしのまとまりの悪い髪は、潮風で乱れてしまうからと器用なマキくんが頭のてっぺんでおだんごにしてくれた。