捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
 それから、特に変わりなく三日が経った。

 光汰から連絡がきた翌日は、さすがに自宅へ帰るときも警戒していたけれど、なんの音沙汰もないため徐々に気が緩んでいた。

 敦子が休みの今日は、仕事を終えたあとはいつもよりも早く支度をしてビルを出た。
 外に出る直前に、なにげなく腕時計を確認したら時刻は夜の十時半前。

「まーきっ」

 突然、馴れ馴れしく名前を呼ばれたものだから、心臓が大きく跳ね上がった。肩を上げ、恐る恐る声のしたほうへ目をやると……。

「光汰!?な、なんで……」

 油断していた頃合いに姿を見せられ、驚愕する。

 彼は付き合っていた頃は、ここ丸の内になんて滅多に来やしなかったのに。こんな時間に普段足を運ばない地域に現れた理由は、私に会うためとしか思えない。

 昔もやや髪色は明るかったけれど、金髪ではなかった。ピアスの穴も増えた気がする。
 光汰は派手なダメージジーンズに両手を突っ込んで、へらへらとして答えた。

「仕事終わってから俺の家に来るの大変かと思って、俺が来てやったの。なんかスマホ使えないみたいだし?」
「は……?」

 スマホが使えないって……拒否されたって気づいてないの? この人、私たちの関係が終わったときの空気をすっかり忘れてるの?
 かなり立腹してたのはそっちで、決して円満な別れではなかったと思うのだけど。

 私は困惑気味に頭に片手を添え、ぽつりと零す。

「いや、ちょっと待って。こんなことされたって迷惑……」
「ほら。まずは真希んち帰ろう。俺んちより近いぶん、少しでもゆっくりメシ食えるだろー? ウマいもんでも食べて酒飲んでこれからのこと話し合おうぜ」

 強引に腕を掴まれて、ぎょっとした。
 光汰が口にした言葉の全部に引っかかりを覚える。違和感しかない。

 なんでなにもなかったかのように振る舞ってるわけ? まして三年以上も経過しているのに。
 大体、その『ウマいもの』は誰が用意すると思って言ってんの? 絶対に私に作らせる気でしょ!

 不満がいくつも出てきて、私は無意識に声を荒らげていた。

「ねえ! 話聞いてる? 迷惑なの!」

 こういう人には、はっきり言わないとダメだ。
 思い切って突き放したら、光汰はきょとんとした顔で私を見る。

「なんで? だって、彼氏いるわけじゃないんだろ? 俺も今はいないし、問題なくない?」
「どうして私に彼氏がいないって言い切れるのよ?」
「だって周りから聞いてたし」

 確かにあれから彼氏はいない。こういう場合、同級生って本当に厄介だ。切っても切れない縁がある。
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