捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました

ともに、歩んでいく人

　約一か月後。

　あれからどうなったかと言えば、職場に事情を話したうえで退職の相談をした。
　ちょうど新しいスタッフが二名決まっていたらしいので、月末で辞めさせてもらった。

　拓馬さんが引っ越し業者を手配してくれて、日曜日に東京へ移った。

　両親が少し寂しそうにしていて、こっちも泣きそうだったけれど、笑顔でお礼を伝えた。


「あ、拓馬さん。今日の食事は？」

　広々とした玄関に立って、拓馬さんを見送る。
　たった半月じゃ、高級タワーマンションの生活にはまだ慣れない。

「ん。週明けだから帰りは少し遅くなるかもしれないけど夕食は食べるよ。と言っても、真希も理玖を丸一日見ていたら大変だろう。無理しなくていいから」
「料理は息抜きにもなるから気にしないで大丈夫です。拓馬さんこそ、無理をして早く帰宅しようとしなくて、も……っ」

　革靴を履き終えた拓馬さんが、急に私の腰を引き寄せた。
　彼の腕の中で動転していると、耳の上で囁かれる。

「無理してでも帰ってきたいんだよ」

　そして、額に軽くキスが落ちてきた。

「行ってきます」
「い……ってらっしゃい」

　玄関の扉が閉まっても、私はしばらくその場で立ち呆ける。

　拓馬さんの息がかかった耳に触れ、ドクドクと騒ぐ心臓を必死で抑制する。リビングから物音がして、はっと我に返った。

「理玖」