捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
「すごい。もう父親の顔になってる。私の母親歴八か月に追いつかれました」

 子どもを置いて出かけても、結局は気になってしまうもの。

 拓馬さんは初めから、理玖への接し方に戸惑いを見せなかった。だから理玖も、まだ短期間しか一緒に過ごしていないのに打ち解けているんだと思う。

 私が笑っていたら、車は料亭の駐車場に停まった。エンジンを切り、しんと静まり返る車内で、拓馬さんがジッと見つめてくる。

「じゃ、少しだけ違う顔をしてもいい?」
「え?」

 ひと声漏らした直後、彼の顔が近づいてきてキスされた。ふいうちに驚く私は、目を見開くだけ。

「真希、愛してる」

 そっと頬に手を添えられて言われた。拓馬さんの真剣な表情は、数分前の父親の顔なんて残ってない。色気のある大人の男性の顔だ。

「ま、待ってくださ……ひゃっ」

 ちゅっと軽く耳朶に口づけられる。そのまま、彼の唇は首筋に落ちてきた。

 予期せぬ急な展開に心臓がお祭り状態。こんなふうに、異性にドキドキしたのは久しぶりだ。

 一気に体温が上がるのがわかる。そして、胸の奥がきゅって、甘く切なく音を上げる感覚に、私も母親じゃない一面が残っているんだと気づかされた。

「いつまで敬語使うの? もう夫婦になるのに」

 耳に直接ささやかれると、堪らず目を瞑って身体を強張らせた。

「え、そんな、急に……っ」

 耳も手も顔も全部が熱い。
 ――刹那、ぎゅっと強く抱きしめられた。

「ようやく捕まえた。ずっと一緒にいよう。俺の愛しい人――」

 スマートに口にした言葉じゃなかった。喉の奥からようやく絞り出した切願だった。

 彼の気持ちの深さに触れ、私も腕を背中に回して抱きしめ返す。

「もう疲れたって言っても、離しませんよ……?」
「いいよ。真希になら本望だ」

 どちらからともなく手を緩め、互いに笑いを零す。
 そして、私たちはもうひとたび唇を重ね合った。
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