捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
 私は膝の上に置いた両手にきゅっと力を込め、俯きながらぽつりと言った。

「あの……じゃあ、わがまま言ってもいいですか?」
「うん。なに?」

 聞き返されてすぐには答えられず、ゆっくり息を吸い込んだ。

「デート……行きませんか? 実は今日、母から連絡が来て。東京に来る用事があって、ついでに一泊するって。それで、二日目に理玖に会いに来てもいいかって話だったんですが」

 どう思われるかが怖くて、後半は早口になってしまった。

 理玖を蔑ろにしてるわけじゃない。でも、そう捉えられたらどうしよう。

「東京に来るんだ。いつ?」
「来週の土日です。それで……ちょうど母が理玖を預かってあげるから、ふたりで出かけてきたらどうかって言ってくれて」

 口実みたいに聞こえただろうか。
 母が提案してくれたのは本当の話。

 そうできたらいいなってちょっと思ったくらいで、無理に実行しようとまでは考えなかった。だけど、今拓馬さんに言われて、少しだけ……欲が出た。

「や、やっぱり甘えすぎですかね?」

 心臓がバクバクいっているなか、拓馬さんはあっさりと答える。

「いいんじゃない? 理玖が泣いてどうしようもないときは仕方ないけど、きっと真希のご両親なら大丈夫だろうし」
「あっ、でも拓馬さんの予定は……」
「真希とのデートだ。その日は空けるに決まってるだろ」

 拓馬さんは私の頭を撫で、口の端を上げた。

「きゃっ」

 ようやく拓馬さんの顔を見られたと思ったら、抱きしめられて視界が広い胸で遮られた。
 数か月経っても、咄嗟に距離が近くなるとドキドキしてどうにかなりそう。

 私が必死に速くなる心音を隠そうとしていたら、頭の上からぼそりと低い声が落ちてくる。

「真希のお願いが予想外で……ちょっと俺、顔が緩んでるから見ないで」
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