捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
 約三十分、理玖のご飯の作り置きを容れ物に入れ終えたとき、廊下から泣き声が聞こえてきた。私が反応するのとほぼ同時に、母が台所にやってきた。

「あ。今、私行こうとしてたから大丈夫。座ってて」

 母を残し、小走りで寝室へ向かう。理玖は布団の上でうつ伏せになって、涙をぼろぼろと零し、大きな口で声を上げていた。

「あ~ごめんね。ひとりじゃ寂しかったよね。よしよし。おはよう、理玖」

 すぐに抱き上げて背中をトントンと軽く叩く。理玖はぴたりと泣き止んで、私の顔を見た。

 理玖は日に日に成長してる。大きくなるにつれ、ますます母親である私に似ていると言われる。自分では似ている実感はないけれど、散歩中にすれ違った人ですら言うのだからそうなんだろう。

「あら~。おはよう、理玖くん」

 リビングへ入ると母がすぐに理玖のそばへやってきた。絨毯の上に座らせると、朝食を終えた父のもとへハイハイしていく。

「だあ」
「理玖。ほら、ちょうどお前の好きな番組やってるぞ」

 堅物な父が今では孫とアニメを見る。もう見慣れた光景になったけど、一年前には想像できなかった。

 何気ない日常は当たり前ではなく、これまで過ごしてきた日々で作られてきたのだと実感し、ささやかな幸せを噛みしめた。
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