捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
「ただいま」

 急いで帰宅して玄関に入ると、いつもと変わらぬ雰囲気で安心した。

 台所からいい香りが漂っていて、リビングからはテレビニュースの音が漏れ聞こえる。
 そして、そこからひょっこりと母に抱っこされた理玖がやってくる。

「ママ帰ってきたね。おかえり」

 私の顔を見るなり、理玖が「まーまー」と言って手をバタバタさせた。
 私はほっとして笑顔を見せた。

「一緒にお風呂入ろうね。支度してくるから」
「――真希」

 私が洗面所へ足を向けたときだった。母に呼ばれて振り返ると、神妙な面持ちをしていてドキリとする。

「なに……?」
「今日、お客さんが来たわ。佐渡谷さんっていう男の人」

 予感していたにもかかわらず、大きな動揺に襲われる。

「い、いつ? それでどうしたの?」
「五時半頃かな。お父さんが門前払いして、そのまま帰ったみたい。お母さんはお父さんに言われて理玖くんと部屋にいたからどんな話したかまでは」

 父が対面したなんて。
 どんな感じになったのか。まさか暴力は奮っていないとは思うけど……。

「そ、そう……。じゃあ、私からお父さんに話したほうが……」
「今日はしなくていいと思うわ。お父さんも平気な顔して見せてるけど動揺してるのよ。それより、お父さんが勝手に追い返しちゃったのはよかったの?」
「うん。いいの。忙しい人だし、もう来ないんじゃないかな」

 すでに昨日、私があれ以上話をするのを拒否したし、父親にまで拒絶されたのなら、さすがに来ないでしょう。

「わかったわ。じゃあ、理玖くんとリビング行ってるからお風呂の準備してきて」
「うん」

 私はパタパタと小走りで部屋へ向かう。タンスから着替えを出したあと、目を閉じて「ふうっ」とゆっくり息を吐いた。

 落ち着け。昨日から想定していた話じゃない。
 父も拓馬さんを家にあげなかったんだし、大丈夫。

 もしも、また私の前に現れても、昨日と同じ言葉を言えばいい。それ以外に伝えることなんてないんだから。
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