極上社長からの甘い溺愛は中毒性がありました




 畔はその日から、また音楽活動スタートのために、いろいろと準備を始めていた。

 それに何故だろうか。
 曲が作りたくなった。

 作った音を畔は聞くことは出来ない。
 だから、楽譜で想像した。
 音も記憶の一部なので、時間と共に忘れてしまうものだ。だからこそ、畔はいつも音を忘れないようにした。
 ボイストレーニングの先生とも頻繁に合い音合わせを細かくして、歌を歌い続けていた。
 時々、自分の音楽は本当に綺麗なんだろうか。音が合っているのだろうか。
 そんな不安を感じてしまう事もあり、怖くなって止めたくなる事もある。
 けれど、歌をやめてしまえば完全に無音の世界に生きていくようで、畔はその恐怖から逃げるために歌い続けている。そんな一面もあった。

 けれど、今は純粋に音楽が作りたかった。歌を歌いたかった。

 そんな一心で数日の間、家にこもって曲を作った。バイオリンやピアノ、ベースなどで音を入れて、そして歌詞を作った。
 時間をかけたつもりだったけれど、頭の中には音楽が出来ていて、あっという間に完成してしまった。

 楽譜を見ても、音楽を流して音の振動を感じても気持ちがいい。
 
 (出来た………。うん、いい感じかも)

 畔はその楽譜を見つめながら、独り満面の笑みを浮かべた。
 こうなると、思いきり歌いたくなる。

 畔の部屋は防音が施されているので、いくら歌っても大丈夫なのだが、狭い部屋で一人きりで歌っても味気ないのだ。
 思いきり歌いたい。

 その気持ちは止める事が出来ずに、畔は出来たばかりの音源とスピーカーを持って家を飛び出した。

 夕方過ぎの時間。
 薄暗くなってきた街を畔はメガネとキャップで顔を隠しながら軽い足どりで歩き出した。
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