青空の下で…
高さおよそ四十メートル、断崖絶壁。


下を覗けば恐怖で足がすくみ、よほどとスリルを求める人でなければできるだけ近づかない―。


そんな危険な場所から、先程私は落下したというのに体のどこにも痛みを感じていない。全くもってだ。


試しに、左手の指先をおそるおそる動かしてみると、指は何事もなかったかのようにすんなりと痛みもなく自由に動いた。


思いきって体を起こそうと、体に力を入れると、自分の上半身はいつものように…なんなら寝起きの時と同じくらいに簡単に起こすことができた。


あれほどの崖から落ちたのに、全くの無傷という不可解なこの状態に困惑し、辺りを見渡す。


確かに…確かに崖から落下した記憶があるのに…。


痛みもないし、体も楽々と動くというあまりにも不自然すぎる事態の中、もしかしたら血だらけになっているのかと思い、身体中を見回してみたが、特に傷とかアザは見つからなかった。




となると…。
まさか、自分は夢でもいるのか?
ここは夢の中なのか?
夢の中なのに、ここが現実だと勘違いしているのか?



あまりにも現実的すぎる夢の世界を探索すべく、立ち上がった。その時だった。





状況把握に必死だった私が、自分の体を確認するのに一生懸命だった私が、一切見ようとしなかった場所―。



痛みを感じないことに対する答えは、自分が倒れていた所から、約1.5メートル離れた場所にあった。

というより、落ちていた…。


自分の身に起こった事実を理解することはできた…が、心のどこか、底の方では受け入れることができずにいた。



茫然と立ち尽くす私の視界に写っていたのは、手首や足首が変な方向に曲がっていて、辺り一面を真っ赤に染めている―。


見るに堪えない無残な姿になった、自分の体だった。
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