クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
 ――光琉ちゃんとのことだってそうよ。

 もしかしたら彼らは本当に付き合っていて、彼女が本命ということだって十分にありえる。

「あれ? 帰ったんじゃないのか?」

「あ。はい。スマートホンを忘れちゃって」

「どうした? なにかあったのか?」

「え?」

「なんだか、すごく怒ってるみたいだぞ?」
 室井が自分の眉間に指をあてる。

「あ、あはは。いえいえ、嫌なこと思い出しちゃって、なんでもないです」
 慌てて眉間を撫でた。

「じゃ、お先に失礼しまーす」
「はい、お疲れ」

 サイテー男のせいで、最近は気がつくと眉間に皺が寄ってしまう。
 イライラはつのるし、ストレスは溜まる一方だ。

 やっぱり真剣に転職考えないと、自分が駄目になってしまいそう。

 そう思いながらエレベーターを待っていると、チン と扉が開いた。

 ――うっ!

 エレベーターに乗っているのはよりによって彼ひとり。
 宗一郎あらため鏡原社長と目が合った。

 こんな女ったらしと同じ空気は吸いたくない。そうは思うが、乗らないでやり過ごすのもなんだか悔しいし、ちょっとおとなげない。

 結局紫織は、ツンと澄ましてエレベーターに乗った。

 すると。
「マンション、美由紀と住んでるだってな」
 何気なさそうに宗一郎がそう言った。

 ――ちょっと。このピリピリとした空気が読めないの?
 室井課長でさえ怒ってることに気づいたのよ?
 まったくもう話しかけないで!
 
 咥内でぶつぶつと文句を言ってから、紫織はムッとして答えた。

「そうですが、なにか」

「……部屋、貸してやろうか? ――空いているマンションがあるから」

 ――マンションですって?
 冗談じゃない!
 例えタダでもそんなところを借りたりしたら、陽子さんに愛人認定されてしまうじゃないか!
 バカバカしい。

「大丈夫です。制服を支給していただいただけで、十分です」

「でも、潰れそうなマンションにいるんだろ?」

 ――え? 潰れそう?
 そう言われて、プチッと紫織の中の何かの糸が切れた。
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