眠れない夜は、きみの声が聴きたくて







田植え作業から一週間が経っていた。俺と響のやり取りは今も継続している。メールも楽しいけど、そろそろ電話もしたくなってきた。

今日の夜に電話をかけていいか聞こうとすると……。

「旭ー。アイス買ってきたから一緒に食べよう!」

ドタバタと騒がしく部屋に入ってきたのは早坂だった。俺はベッドに横になったまま顔だけをドアに向ける。はあ……とため息をついて、すかさずスマホに視線を戻した。

「アイスなんて頼んだっけ?」

「私が食べたいから買ってきたの!」

母さんが会いたがっているからうちに来ればと言ったのは俺だけど、最近の早坂は連絡もなしにこうして上がり込んでくることが増えた。

まあ、この町ではプライバシーなんてないに等しいから驚くことでもない。

早坂が買ってきたのは、棒つきのアイスだった。溶けたら無駄になるので、俺は行儀悪くベッドにあぐらを掻いて、アイスを口に入れた。

「見て! 私のアイス当たりなんだけど!」

「あ、俺も」

「うっそ! すごくない? こんなことある?」

「全部当たりなんじゃねーの?」

「あとで壱にいんとこに交換しにいこう」

「んー」

早坂は学校以外では先生のことを〝壱にい〟と呼んでいる。もちろんふたりは教師と生徒になる前からの知り合いなので、早坂いわく先生って呼ぶと負けた気がするんだとか。

俺は当たり棒を口にくわえたまま、しきりにスマホを見ていた。響から返事が来ない。

女々しくやり取りを見返していると、早坂にスマホを奪われた。
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