ロマンスフルネス 溺愛される覚悟はありますか?


看護師さんの強い態度に夏雪も引き下がり、内心ほっとしていた。夏雪と何を話していいのか分からなかったし、どんな話をされるか想像すると怖くて仕方がなかったから。





それからというもの、私の身体は順調に回復していった。海に落ちた後すぐに救助されたのだから、本当は入院などせずとも元気になる見込みだったらしい。

けれど、私が眠ったまま何日も目が覚めないので慎重に扱われていたそうで、目覚めなかった原因をうっすらと自覚してる私としては、申し訳なくなるばかりだった。


「面会希望の方、本日もいらしてますけど?」


「すみません、身体の不調で会えないと伝えて頂けますか?」


「見たところ、ほぼお元気そうですけどね。さっき病院食お代わりしてませんでしたっけ?」


「えへへ…」


看護師さんはやれやれという表情で、今日も私のワガママを見逃してくれる。しばらくして、「はい、こちら本日分のお届けものです」と綺麗な花束を抱えて帰って来た。


病室は既に花束で溢れかえっている。何も言わなくても看護師さんが丁寧に生けて水替えまでしてくれるから、どの花も美しいままだ。


次の日になって、その花束たちを病室の目の前のゴミ箱に捨てた。まだ元気に咲いている綺麗な花に本当に申し訳ない。きっと私には一生お花を買う資格は無いだろう。心の中で何度もゴメンと唱える。



ベッドをリクライニングして座っていると、残念なオブジェのように積み上がった花束を前に、困惑して足を止める夏雪の姿が見えた。その手には新しい花束を持っている。


彼に伝えたいのは「ゴメン」なのか「ありがとう」なのか、はたまた「感謝してよね」なのか。言いたいことは全然分からないまま。





「そういうの、押し付けられても迷惑なんだよね」


「透子…!
もう体調は大丈夫ですか?ずっと具合が悪いと聞いて心配で…」


「大丈夫だよ。でも大丈夫だった、っていう方が正確かな。夏雪の顔見るまでは元気だったから」


棘のある言葉に彼は軽く眉をしかめ、病室の扉を閉める。


「何故?」


答えない私に業を煮やしたように強引に抱きしめられる。急に距離をつめられて、彼の香りと温度に涙が落ちそうだった。


「嫌だっ、やめて…」


「離しません」


肩を振り払おうとしても、力では叶わない。ずっと欲しくて仕方がなかった温もりにクラクラして、どうしてもその腕にすがり付きたくなってしまう。

けれど顎に手をかけられて唇が触れそうな距離に近付くと、条件反射で全力で振り払った。本気で抵抗してるのが伝わったのか、夏雪の力が緩む。


「透子はおそらく、九重に多くの情報操作をされているのでしょう。
あなたが傷付いたことも、怒りを感じたことも全て俺が解きますから。何も怖がらずに話をしてください。」


「違うってば」


「彼のような人物をあなたの護衛につけたことも、心から謝ります。透子はクロエを突き落としてなどいないし、あなたが海に落ちたのも事故ではないんですよね?

危険な目にばかり合わせてしまい、本当にどう詫びたら良いのか…。生涯、償わせてください」


「いいよ、そんなの要らない。生涯なんて重いし」


夏雪と目を合わせたくない、手を触れ合わせたくない。ふて腐れた生徒のように下を向いて視線の逃げ場を探した。


「ひとつ、腑に落ちない事があるんです。

透子は九重が自分をターゲットに攻撃していることに、気がついていましたよね。何故ずっと、彼の問題を俺に伝えなかったのです?」


「…」


だって、九重さんが私に反対する理由はわかるもん。それでも九重さんに認めて欲しかったの。

夏雪を大切にしてる九重さんに認めて貰えたなら、私でも夏雪の奥さんになっていいのかなって思ってたから。


けれど、出来なかった。
それに、私よりもっと相応しい人がいるって気付いてしまったから。


たまたま恋愛できるようになったときに
なんとなく出会った恋人じゃなくて


障害があっても恋をせずにはいられなかった、
瞳をあげたいと願ったほどの人と、夏雪は一緒にいるべきだよ。

ねえ、夏雪はまだ自分で気付いて無いの?

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