結婚から始めましょう。

「私のことは何を言われても構いません。けれど、蓮さんのことを悪く言うのはやめてください」

必死に言い返すも、黒田は私を見据えたまま小馬鹿にしたように鼻で笑った。
なんだか、自分の無力さを思い知らされているような気分になってくる。

「あなたに何がわかるっていうの？たった数ヶ月の付き合いで、全てを知った気になるなんて、どれだけ傲慢なのかしら？
秋葉グループの中の秋葉蓮を、あなたはどこまで知っているって言うの？」

悔しいけれど言い返せなくなった。黒田の言う通りだと思ってしまったから。

プライベートの蓮のことは、もう随分たくさん知ってる。
心を許した相手には、砕けた口調になること。ご両親のことを理想の夫婦だと思っていること。髪を乾かすのが面倒で、放置しがちなこと。生のトマトが苦手なこと……


でも、公の場での秋葉蓮は、知らないことだらけだ。

「図星からしら？」

勝ち誇ったようにニヤリとする黒田に、唇を噛みしめた。

「社長は、あなたのように何も持たない人が結婚していい相手じゃないわ。それなのに、のこのことパーティーにまで顔を出して。どれだけ社長の価値を下げたら気が済むのかしら？あなたの言動は、この会社の価値まで下げてるのよ」

「価値を、下げる……」