隠し事はサヨナラの種【完】
 そして、翌週、金曜日。

 定時を迎えると、篠宮さんが机の上を片付け始める。

「ほら、天野、行くぞ」

そう言われて、私は慌ててパソコンをシャットダウンし、書類や筆記具を引き出しに片付ける。

「お先に失礼します」

篠宮さんに続いて、私も挨拶をして、オフィスを出た。篠宮さんと、近くのパーキングまで並んで歩く。

「天野は、流星群とか見に行ったことあるのか?」

篠宮さんが尋ねる。

「流星群は初めてです。小学校の宿泊研修で星の観測に行ったことはあります。近くの天文台の研究員の人が天体望遠鏡を持ってきて、いろいろ見せてもらいました」

私は懐かしく思い返しながら、小学生の頃の思い出を語る。

「じゃあ、流星群は初めてなんだな? 幸い晴れたし、たくさん見られるといいな」

そう言って、篠宮さんは私の髪をくしゃりとひと撫でした。

 駐車場に着き、篠宮さんが助手席のドアを開けてくれる。篠宮さんの愛車は、黒のハイブリッドのコンパクトカー。スポーツカーとか、ごついオフロード車をイメージしてたから、ちょっと意外。でも、中は、思ったよりもゆったり広々としていて、座り心地もいい。

 そんなことを思っていると、篠宮さんは、静かにアクセルを踏む。そうして、取り留めのない話をしながら、気付けば高速に乗っていた。篠宮さんに勧められるまま、私の好きな音楽を掛け、互いの趣味や思い出話に花を咲かせる。途中、サービスエリアで、一緒にラーメンをすすり、飲み物や夜食代わりのおやつを買い込む。そうして、気付けば9時前に、ようやく目的地に着いた。

 斜面になった芝生広場の上に、篠宮さんが用意してくれたレジャーシートを広げて座る。すると、しばらくして、篠宮さんが言った。

「ずっと上向いてるのって、首痛くならね?」

「うん」

私が答えると、右に座る篠宮さんは、突然、右手で私の肩をトンっと押す。私は慌てて後ろに手を突いて踏ん張った。

「何、するんですかぁ⁉︎」

私が抗議すると、篠宮さんは、さも当然と言うように答える。

「絶対、横になった方が見やすいって。ほらっ!」

篠宮さんは、突然、私の左手を握ると、そのまま横になった。

えっ、何? なんで、手、繋いでるの?

意味が分からず、うろたえていると、今度はその手を引っ張られた。

「ほら、絶対、この方がいいから!」

そこまで言われて、意固地になって座ってるのも、なんとなく可愛くない気がして、私は、戸惑いながらも、そっと隣に横になった。

「うわぁ……」

寝っ転がることで、周りの景色が目に入らなくなり、まるで星空の宇宙に浮かんでるかのような気分になる。

「な? いいだろ?」

「はい! すごく綺麗です」

でも、篠宮さんは、私が横になった後も、手を握ったまま。離してとも言えなくて、私は無駄に手汗をかく。
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