エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~


四宮さんの車は、エンジン音がとても小さく走り出しの振動もほぼなかったので、車がすでに動いていると気付いたときにはびっくりした。

自社製品だし手前味噌になってしまうけれど、技術の進化に感動する。

「すごいですね……こんなに静かなんですね」

黙っていられずに思わず言うと、四宮さんは前を向いたまま答える。

「ああ。これはトルクコンバーターを使っていないタイプだから普通のハイブリッドよりも静かに感じるかもしれない」

私も自動車メーカーの社員だし、お客様と話すにあたりそれなりに知識はつけた。

でもそれはラジエーター液やオイル類、エレメントといった、車検の受付を行う時に説明が必要となる部品についてだけなので、それ以上詳しいものはわからない。

トルクコンバーターと言われても、たしかエンジンと関係するものだったような……というくらいの知識しかない。

けれど、教えてもらったところで理解できる自信もないので「そうなんですね」と相槌を打っていると、四宮さんがチラッと私に視線を移した。

「遅れて悪かった。向かっている途中に会社の人間から電話があって、その対応をしていた。連絡も入れられずにすまない」

信号が赤になり、四宮さんの運転する車が静かに停車する。

暗い車内。それでも内装がとても上品であることは十分わかった。シートの座り心地のよさにまだ戸惑いながらも、首を振って笑顔を作った。


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