記憶奏失
 ただ、美那子はそれを大変に喜んでいた為、当時のひかりはとても喜んだ。
 もう少し大きくなったら、ピアノを習うのもいいかもしれないわね、と母は言っていた。
 小鳥遊家には父がいなかったから、美那子が喜んでくれていることは、何でも嬉しかった。
 一緒になって、お手伝いさんの山本も喜んでいた。

 笑顔が溢れて、とても温かかった。

 月日は流れ。
 少し大きくなったひかりは、小学二年生。
 そろそろピアノを習ってみようかと思い至った美那子、そしてひかり自身。美那子の知り合いで、昔プロで活躍していた先生が個人でやっているピアノ教室へと、足を運ぶことにした。

 久しぶりね。
 何年ぶりかしらね。

 楽しそうに再会を喜ぶ二人を横目に見ながら、しかしひかりの目には、荘厳で偉大な姿を堂々と晒すグランドピアノが、ずっと映っていた。
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