【完】#ただいま溺愛拡散中ー あなたのお嫁さん希望!ー

――「私、樹に会えて幸せだったわ」

「樹、陽向という宝物を私にくれてありがとう」

「ずっとずっと愛しているわ」

「陽向の事をお願いね」

向日葵は自分がもうすぐ死ぬ事を理解していた。 俺は何も出来なかった。

向日葵の花が満開に咲き誇り太陽に向かい顔を上げる。夏が終わり、お日様へと顔を向けなくなった向日葵が枯れていった季節に

彼女は帰らぬ人となった。


お通夜と告別式が終わった夜に、一人きり…大人になってから初めて声を殺して泣き続けた。

一晩中泣き続けた。 もう向日葵は、俺へと笑顔を見せてはくれない。 この世に彼女は居ない。


向日葵が亡くなったのを境に泣き虫だった陽向は泣かなくなった。 しっかりするようになって、子供らしくない子供へと成長していった。

そして俺は、向日葵が亡くなった日に誓ったのだ。
もう生涯本気で誰かを愛する事はない、と。

そして向日葵が残した陽向の為だけに生きて行くのだ、と。


思い出の中の向日葵はいつだって笑っていて、泣いていたり悲しんでいる姿はどうしても思い出せないんだ。

俺達に優しい記憶だけを残していく為に、きっと独りで不安や孤独と戦っていた。
そんな優しい思い出だけを残して、向日葵はこの世を去った。

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