【完】#ただいま溺愛拡散中ー あなたのお嫁さん希望!ー

「チビひなた。あんたが嫌なら私もうお父さんには会わない。けれど、お父さんがいつまでもお母さんを大切に想っている事。
それだけは信じてあげて?」

その小さな体を抱きしめると、とても温かい。

柔らかなほっぺたの涙を拭おうとすると、チビひなたは私の手を振り払ってすり抜けるように走り出してしまった。

「お前の言う事はもう信じない!」

「チビひなたッ!」

信号も見ずに走り出してしまったチビひなたの背中を追いかける。

八代台オフィスビルの前にあるスクランブル交差点。 チビひなたが道路に走り出した時、猛スピードで走り抜けて来る車のランプの光が見えた。

「危ない!陽向!」

自分の命を投げ出してまで子供を守る母親の気持ちが少しだけ理解出来た。

幼い事故の日。私も本当は両親と一緒に死ぬはずだった。 けれどお母さんが私を庇うように抱きしめてくれたから、私は一命を取り留めたんだ。

私は母親ではない。代わりになるつもりもないし、なれないと思った。

チビひなた。
私の事をお母さんなんて一生思わなくたっていい。 でもその代わりといっちゃなんだけど、あなたと樹くんと一緒に過ごす時間を私に下さい。

馬鹿なお姉ちゃんでもいい。同世代の友達だと思ってくれても構わないから。


いつの間にか私の中で、あんたの事でいっぱいになっていったんだから――。
薄れていく意識の中で、樹くんと三人で笑っているチビひなたの幸せそうな顔だけが頭を過った。

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