冬の花
「昨日もまた北川の母親から電話があって、寝不足で。
北川とは同期ってだけで、それ程仲良かったわけじゃないのに、ほんと勘弁。
社長もなんで北川の母親に俺の番号教えたんだよ…」

欠伸をしながら、長谷川君はハンドルを握り車を運転する。

今日も仕事の為、長谷川君は私のマネージャーとして同行する。

今のように、長谷川君を通して、
佑樹の失踪の後の事を私は知っている。

1ヶ月経った今も、佑樹の母親は佑樹の行方を探している。

佑樹の父親はどうなのだろうか?

母親と同じくらい、佑樹を心配しているのだろうか?

「けど、俺よりもあかりちゃんに聞けばいいのに。
北川と幼なじみなんでしょ?」

幼なじみ…。

その言葉を、胸の中で反芻する。

「あかりちゃん、聞いてる?」

長谷川君は、よく言えば人懐っこくて、
悪く言えば馴れ馴れしいのか、
同じ年だからと私に対して友達のように話して来る。

初めから、そんな感じ。

けど、この人との薄くてペラペラのこの関係が、
私はとても気楽に感じる。

「昔、近くに住んでただけで、
私は佑樹の事は殆ど知らないから」


私は佑樹の事をよく知らなかった。


逆に佑樹は、私の事をどこまで知っていたのだろうか?

昔、私は佑樹を好きだった。

初恋だった。

そんな好きだった佑樹に、突然手のひらを返したように嫌われ、辛くあたられて。

その時から段々と、
佑樹を好きだった気持ちは、憎しみや嫌悪に染まって行った…。

そして、最終的にそれは殺意に。
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