冬の花
11
「どこに行くの?」

夜が更け、終電に間に合うように私はホテルから出たが、
数メートル歩いた所で、背後からそう肩を掴まれた。

てっきり、それはマネージャーの長谷川君かと思ったが、
振り返ってみると私を引き留めたのは鳴海千歳だった。

「鳴海さん来てたんですか?
てっきり、明日の朝に来るかと思ってました」

今回の映画の脚本家である鳴海千歳も舞台挨拶に参加するが、
色々な仕事を抱えて忙しい彼は、
明日の朝直接映画館に来るとスタッフから聞いていた。

「そのつもりだったんだけど、
この雪だし、朝新幹線が動かない可能性もあるから。
今やっと着いたばかり」

あの日のように、今日は雪が降っている。

この地方は、この時期いつもこんな感じ。

「それより、こんな雪の中、傘もささずにどこに行くの?」

「鳴海さんも、傘さしてないじゃないですか?」

私と同じように、鳴海千歳も傘をさしていない。

私はすぐにタクシーを捕まえるつもりだったから、
傘は持たなかった。

「俺は、チェックインしてる時に、
出て行く君の後ろ姿が見えたから、気になって。
傘、フロントに置いて来てしまった」

言われてみると、
鳴海千歳は大きな鞄を肩にかけている。

本人の言っているように、
慌てて私を追いかけて来たのだろう。

「なんか心配させたみたいですけど、
ちょっと、コンビニに行こうと思っただけですよ」

私がそう笑い飛ばすと、
鳴海千歳はその表情を一層険しくした。

「父親の殺害現場でも見に行くつもり?
それとも、発見されたとか言う湖」

その言葉に、違う、と首を振った。

「ホテルのロビーのソファで新聞読んでるおじさん、きっと刑事だよ。
軽率な行動はしない方がいいと思うけど」

その言葉で、私は冷静さを取り戻して行く。

私は、父親が見付かってから、焦っていた。

「とにかく、俺の部屋で話そう」

その言葉に、頷いた。

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