冬の花
「今度のドラマ、また私を主演にして頂きありがとうございます。
先日、ドラマの企画と大体のキャスティングをマネジャーから聞きました」

事務所に送られて来たそのドラマの企画のメールの印刷を、
見せて貰った。

それを見たから、私は今この人に話し掛けている。


キャスティングに、なんであの人の名前があるの?!


「ああ…。
てか、今回キャスティングに俺はノータッチだから。
元からこの枠で君が主演のドラマを、って事で、
ちょうどいい原作の小説と、脚本家が後から決まったような感じだし。
売れっ子女優岡田あかり様」

なんとなく、嫌味っぽい言い方に少しムッとするが、平常心を心がける。

「あの、鳴海さんにお願いがあって…」


「なに?
ろくでもない事のような予感だけど」


「今度のそのドラマにキャスティングされてる女優、保田美憂を降ろして」

「…えっ?なんで?
保田美憂?」

私のその言葉が予想外過ぎたのか、
動揺するくらい面食らっている。

「はい。私は保田美憂が嫌いなの!
ここ数年、全然ドラマにも出てなくて、段々と世間から忘れられ始めていたのに、
なのになんでまた?!
保田美憂なんか、消えてしまえばいいのに」

「ちょっと待て!
こっちこい。
こんな所でそんな話しないで」

鳴海千歳は私の腕を掴み、目の前の小さな会議室に引っ張ると、
ため息混じりに部屋の電気を付けた。

「私は保田美憂が嫌いなの」

「それは、さっきも聞いたけど」


私は、女優の保田美憂が嫌い。

阿部さんが彼女のファンだったから。

ただ、それだけの理由で嫌いだけど、
私には大きな理由。

最近テレビに出て居なかった彼女は、
世間では忘れさられ始めていた。

なのに、今回のドラマ出演でまた彼女の人気が出たらどうしよう?と、
思っている。

私の知らない何処かで、阿部さんが彼女をテレビで見て顔を綻ばせていると思うと、許せない。

それになにより、彼女と一緒にテレビに映る度、
阿部さんは私じゃなくて彼女を見るのでは?

そんなの、嫌!

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