いつまでも…片想い  若葉色

 最寄り駅に着き改札を出た。ケータイ片手に神崎さんをデートに誘うか迷う。

 声も聴きたくなり、酔った勢いで電話する。何度かコールは鳴るが出ないので切ろうとしたら『はい』と出た。

『もしもし?神崎さんですか?』電話の向こうはガヤガヤしている。

『 電話なんて珍しいな どうした?』

『 12月5日 土曜日は空いてますか?』

『 悪い その日は同期で出掛けるんだ』

『 そうですか 仕方ないですね』

 やはり、会えないんだね。覚悟してたけど哀しい。

『 何かあるのか?』

『 ……遊園地とかイルミネーションを観に行けたらいいなぁと思っただけです 』

 電話から神崎さんを呼ぶ女性の声がする。今日の飲み会のメンバーなのだろう『先にいってて』ときこえるが私に話している訳ではなさそうだ。段々と虚しくなってくる。

『 また家に行くから、その時改めて決めよう』

『 月が綺麗ですね 』

 私から言うのは最後かも知れない。この言葉の意味が分かるだろうか?

『 月が見えるのか?今どこにいる?』

 意味、伝わらなかったな…

『 改札出て歩いてます。 月は見えません』

『 遅い時間はタクシーに乗れよ』

『 いつも歩いてますよ』

『 七海 酔っているのか?』

『 そうですね。少し酔っているかも知れません。 今日は話しが弾んでお酒も進んでしまいました』

‘’誰かさんのせいです‘’ なんて口には出せないけどね。

『 何でいつもそう無防備でいられるんだ!危ないだろう 心配させるなよ』

『 心配ですか?大丈夫ですよ だって私はセフ
……何でもありません』セフレでも心配してくれるんだ。

『 完全に酔ってるな、大丈夫って柔道でも出来るのか?』

『出来るわけないです』

『 そうだよな、家に着くまで電話切るなよ 』

『切りますよ もう話しは終わりましたから 』

『 終わっても危ないから切るな 今どの辺りだ?』

『 アパートが見えます だから切りますね』

『 ダメだ 部屋に入るまでは 』

『なら、何か話して下さい 』

『 何が聞きたい?』

本音は”私こと好きですか?”

『 …………』

『七海?聴こえてる?』

『聴こえてます』

『何かあったのか?』

『うーん?あったと言えばあったし無いと言えば無いかな』原因は神崎さんなんだけどな。

『意味不明だろ…』

『そうだね、意味不明だね。酔っているのかも』

『どうしたんだ?今からアパート行こうか?』思いがけない言葉に切なくなる。

『ううん、大丈夫』強がりばかりの自分自身に呆れてしまう。

『何かあったら連絡しろよ?』なんでこんなに優しいの?誰にでも優しいのかな。

『 うん、ありがとう。もう部屋に着きましたので 切りますね。』

『本当に着いたのか?』

『うん、着いたよ。だからおやすみなさい』

『 ああ おやすみ 』

 素直に「来て」と言えたなら、私達の関係は変われたのかな。

 違う、もし会えても、きちんと話し合わなくては前に進む事は出来ないのかも知れない。私は勇気が欲しかった。

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