いつまでも…片想い  若葉色


 月曜日の朝、いつものように七海を探すが姿が見えない。他の乗客に隠れているのか?出発するまで探したが見えなかった。

 火曜日はすぐに発見し、笑顔が見えたので笑みを返す。

 
 木曜日に七海に会いに部屋へ行った。

「先週は誰と飲んだの?」

「綾乃だよ」

 男とではないのでホッとする。

「外ではあまり飲むなよ、飲んだらタクシー乗れよな」ハグをしながら、顔を覗き込む。

「なるべく気を付ける」

 いつもの笑顔がないが、生理で体調が優れないようだ。口数も少く素っ気ない。
 
 シャワーから出ると七海はもうベッドに入ってる。オレも寝る準備を終えてからベッドに入り七海を後ろから抱きしめた。

「今度の週末の連休は大学のサークルOBで出掛けてくるな」 話し掛けると七海の身体が一瞬ビクッとした。

「うん」一言だけ帰ってきた。


 12月に入り 会社の帰りに瑛と会ったのでそのまま食事に行く事にした。

 早速彼女の話しになった。

「クリスマスはどこかに行くのか?」

「 行った方がいいよな?」

「それぞれじゃないか? 俺たちはクリスマスは桜の部屋で過ごして、年末に旅行に行く予定だ」

「へぇ、いいな」

「最近はどこへ行った?俺たちは…ほら ここ」

と顔をほころばせケータイの写真を出してきた。誰にでも分かる遊園地で 瑛の前には”あっくん‘’
桜ちゃんの前には”さくら”と入っている。

「『あっくん』と呼ばれているのか?」

「そうだよ 彰汰はなんて呼ばれているんだ?」

「『神崎さん』」

「何で下の名前で呼ばせないんだ?」

「気にしてなかった 」オレの名前を呼ばれる事は殆どないしな。

「案外ドライなんだな」

「そうかな」

「それでデートはどこ行ったんだ ?」

「行ってない 」
 七海は遊園地も行きたがってたな。

「?…上手くいってないのか?」驚いた顔でオレを見た。

「 別に普通だろ、週末はオレ忙しくて会えてないんだ。だから平日に七海の部屋へ行ってる」

「 よく続いてるな、彼女は休日仕事なの?」

「いや、休みだよ」

「それで、何も言われないか?」

「うーん、以前は土日空いているか聞かれたけど、最近は聞かれないしな」

「忙しいって彼女に会えない程か?
いつからデートしていないんだ?」

「うーん 最初に箱根にドライブ行ってから 」

「 それっておかしくないか?本当に付き合っているのか?」

「…おかしいか…な…付き合ってるよ」

「 彰汰さぁ、それで『付き合ってる』って彼女が可愛そうだろ。恋愛下手にも程がある。『リス捕まえた』って言ってたけど どうやって捕まえたんだよ?」

「8月にカフェで出会って、朝の通勤の時に隣のホームに入ってくる電車に乗っているのにお互いに気付いてさ、それからは毎朝挨拶してた。

9月の半ばかな、 会社の帰りに 体調崩した七海に偶然会って病院の帰りだったらしくてさ 放っておけなくて車で送ったんだ。

 その後お礼にと食事に誘われて 食事へ行った。その後七海の家へ行った時に『好き』と言われてそのまま泊まった。
 
 翌週に箱根に行ったんだ 」

「 それで?肝心なところが抜けているけど、彰汰はいつ告白したんだ?」

「…言ってない…な」

「 付き合うってなったのはいつなんだ?」

「…ない?かな」

この時はまだ自信満々だった。

「突然三行半突き付けられるタイプだな」ボソッと瑛が呟いた。

「はっ?」

「さて、神崎彰汰さん。あなたに1つ質問します。良く考えて答えて下さい。

 もし、七海さんが誰がに『付き合ってください』と交際を求められ『はい』と返事をした場合、あなたに関係はあるでしょうか?」

「七海が『はい』なんて言う訳ないし」

「関係ありますか?」

「あるだろ…」

「ブー。不正解」

「なんでだよ?」

「だって、彰汰からは何も言っていないんだろ?交際の申し込みしていないだろ、駄目じゃん」

「 本当に付き合っているのか?確かめたのか?」

「確かめて無いけど会いに行けば嬉しそうに迎えてくれるしな」

「彼女から何か言って来なかったのか?」

「七海は何も言わないしな …まぁ最近連絡は減ったけど…」

 ふと浮かんだ七海からの唯一の電話。

「あぁ2週間くらい前に七海が電話してきたんだ 『12月5日会えませんか?』って その日は同期会だろ?だから『会えない』って言ったんだ 、初めて七海からの電話だったけどな。

 そうだ!それからケータイに連絡が来なくなったんだ 」

「それはもつれたな。彼女の忍耐も切れたんじゃないか?」

「 えっ!」

「 他には言ってなかったのか?それで電話切れたのか?」

「 その時七海は飲んだ帰宅途中でさ、心配だったから部屋に着くまで電話切らずに話してたんだ。 そういえば『月がきれい』って言ってたな。」

「月が綺麗な日だったのか?」

「いや、オレは確認していないけど、
『月が見えるのか?』って聞くと『月は見えない』って答えるから相当酔ってると思ったんだ 」

「 それってさ『月が綺麗ですね』だろ?意味あるだろ 」

「 そうなのか?どんな意味だよ」

「‘’ I Love You‘’ …夏目漱石の有名な言葉だよ 。因みに ‘’月は見えない‘’ は ‘’興味ありません‘’ だけどな」

「 はっ? 」何だよ、そんなの知らないだろ。

「まぁ、受け答えからすると『月は見えない』は現実の事を言ってるだろうから、大丈夫だろ。彼女はどんな気持で『月が綺麗ですね』って言ったんだろうな、不安だから直球で言えなかったのかもな」

「オレ、最悪だな」

「 忙しいならさ、……彼女を家に呼んで過ごしても良かったんじゃないか?」

「そうだな、 自宅に呼べは良かったかな、一度も来た事ないんだよ 」

「 はぁ彰汰!彼女なのに一度も自宅に呼ばなかったのか?それは彼女も不安になるだろ。それって セフレと思われているんじゃないか?セフレでも扱い酷いな 。彼女と話し合って謝ったほうがいいんじゃないか? 」

「…………………」

「 彰汰にとって七海ちゃんはどんな存在なのかよく頭冷やして考えろよ 。 もう帰るか?オレ桜に会いたくなった」
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