揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
入社式が終わったその足で、研修センターにバスで移動。同期との交流を深めながらもみっちりとしごかれ、休日を挟んで、鈴が本社ビルに初出勤したのは、1週間後のことだった。


営業部に配属された同期達と、緊張の面持ちで、先輩達の前に立ち、まずは順番に自己紹介をしたあと


「改めて、入社おめでとう。私は営業部長の本田(ほんだ)、君達にとっては、初めての上司ということになる。君達が社会やウチの会社に失望するようなことがないように努めるから、1つよろしく。」


40代半ばと見受ける本田部長は、穏やかな口調で、まずはそう言った。


「みなさんは、既に事前研修を終えて、ここに立っている。基本的なことは、既に習得済のこととして、接しさせてもらうが、もちろん、だからと言って、みなさんが今日から我々と同じ仕事をこなせるなんて、ここにいる誰も思っていない。まずは教育リーダーに付いて、勉強してもらいたい。一度教えただけで、理解し、実践出来るような天才は、恐らく1人もいない。わからないことは何度でも聞いて欲しいし、根気よく何度でも教えるように、リーダーには言い聞かせてある。もし、それを厭うような態度を取るようなリーダーがいたら、その時は、遠慮なく私に相談して欲しい。これは部長たる私の指示として、みなさんとリーダー、更にはここにいる先輩社員全員に、認識して欲しい。」


そう言って、全員の顔を見渡した本田部長は


「ただし、それはこれから3ヶ月間の試用期間の話だ。みなさんが正式に社員登用された後は、経験の差こそあれ、みなさんは先輩達と同じ我が社の営業部員だ。そう扱われる。どうか緊張感を持って、日々の研修、実習に取り組んでいただきたいし、リーダーを始めとした先輩社員達は、責任を持って、彼らを導いて上げて欲しい。」


と訓示を締めた。


(いよいよ始まるんだな。)


その言葉に、鈴も身を引き締めていた。


鈴が付いた教育リーダーは、遠藤香織(えんどうかおり)という2年先輩だった。


「営業事務の業務は、営業担当の後方支援であることは間違いありません。でも、私達が作る見積書や契約書を初めとした各種書類がなければ、営業は商品もサービスも何も売れません。また、営業担当に代わって、取引先、顧客との応対をすることも珍しくありません。実際に営業事務を担当しながら、営業のアシスタントに付き、そこから営業担当に転身する道も、近年は開けています。また、商品の在庫管理も私達の仕事です。私達の仕事は、会社のある意味、根幹であると断言して、差し支えないと思います。」


そう話す彼女は、可愛らしい雰囲気を纏いながらも、テキパキとした能吏をイメージさせた。


(仕事には厳しいんだろうな、遠藤先輩・・・。)


鈴は漠然と、そんなことを思っていた。
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