揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
「雨宮さん、今、僕のこと『達也さん』って・・・。」


驚き、戸惑ったように、言う達也。一方の鈴も一瞬、自分のその言葉に驚いたが


(もう行くしかない。)


そう覚悟を決めた。


「はい。前にお会いした時も、そう呼ばせてもらいましたから。」


「前に?」


「はい。」


尚も戸惑いを隠せない達也に


「達也さん、本当に私のこと、忘れちゃったんですか?6年前の夏に、あなたとあの海で、お会いしたじゃないですか!」


ついに鈴はそう言った。その言葉を聞いた達也の表情が、見る見るうちに驚きに染まる。


「えっ・・・じゃ、君は・・・あの時の鈴ちゃんなのか?」


「はい、あの時の鈴です。達也さん、思い出してくれましたか?」


「いや、正直、名前を聞いた時、あれ?とは思ったんだ。でもまさかって・・・。」


尚も驚きを隠せない達也に


「酷いです。私はすぐにわかりましたよ。でも、達也さんは全然知らん顔で、正直ショックでした。」


鈴は恨み言。


「すまん、別に知らん顔してたわけじゃないし、鈴ちゃんのこと、忘れてたわけでもない。たださっきも言ったように、まさかと思ってたし、それに正直なことを言うと、あの時、俺、鈴ちゃんの顔、よく見えてなかったんだ。」


「えっ?」


「あの日、俺、メガネを忘れちゃってさ。だから鈴ちゃんのこともぼんやりとしか見えてなかったんだよ。今はコンタクトにしてるから、もちろんちゃんと見えてるけど。」


「そうだったんですか・・・。」


事情がわかって、鈴は少し安心した。


「でもな・・・こんなことがあるんだなぁ。」


達也はしみじみと言う。


「私もびっくりしました。でも・・・私は嬉しいです。達也さんにまたお会い出来て、そして・・・やっとこうやってお話も出来て、本当に嬉しいです。」


「鈴ちゃん・・・。」


笑顔の鈴の横で、達也の表情はなぜか、複雑だった。
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