揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
提出された日誌に目を通し、自分の仕事も片付けてから、退社した鈴が会社の通用口を出ようとすると


「鈴、お疲れ。」


と後ろから声が掛かる。振り向くと同期の総務部員のひなただ。


「あっ、ひなた。お疲れ。」


2人は笑顔を交わす。


「どう、そっちの新人は?」


「うん、みんな頑張ってるよ。そっちは?」


「今年はウチは1人しかいないんだけど、神野主任が、熱心に面倒見てるよ。」


達也は、この4月から「主任」という肩書が付いた。出世への第一歩で、鈴は我が事のように喜んだが


「いや、ここまでは、会社にいれば、だいたいなれるから。」


達也は照れ臭そうに、そう言った。実際にはもちろん「だいたいなれる」わけではなく、謙遜で


(これでお母さんも、達也さんをちゃんと認めてくれるはず。)


と思うと、余計に嬉しかった。


「で、今日はズバリ聞いちゃうけど。」


じゃ、お夕飯でも食べて帰ろうかと、意見が一致して、やって来たイタリアンレストランで、ひなたが切り出した。


「神野主任とは、どんな話になってるの?」


「えっ、どんなって・・・?」


「とぼけちゃって。遠藤さんの次は鈴だって、もっぱらの評判だよ。」


「えっ、えぇ?」


驚く鈴に、ひなたは続ける。


「運命の再会から約2年、付き合い始めてからだって、かれこれ1年半じゃない。同期の結婚第一号だから、盛大にお祝いしようって、みんな張り切ってるんだけど。」


「う、うん・・・。」


返事に困った鈴は、まだまだ具体的なことは何もない。でも順調にお付き合いはさせてもらってると答えて、話題を変えた。


帰り道、鈴は1人考えていた。


(順調、なんだよね、私達・・・。)


初の旅行が、良子の横ヤリで中止になってからも、2人の仲は、周囲が羨む程で、達也は相変わらず優しい。


鈴には何の不満もなかったが、不安はあった。
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