揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
それから2日後、鈴は父と向き合っていた。中学2年の時に大輔が家を出て以来、実に11年ぶりの再会だった。


11年の歳月は、鈴を少女から父親の目から見ても眩しい大人の女性に成長させ、父の顔に年輪を刻ませていた。


母との離婚後、部下だった不倫相手と再婚した父は、その女性との間に、2児を設けていた。年の離れた異母きょうだいの存在を報告された鈴は、さすがに複雑な心境だったし、母が自分を父に会わせたがらなかった理由の一端がわかったような気がした。


それでも一瞥以来の鈴のいろんな話に、父は熱心に耳を傾けてくれた。達也との馴れ初めを話した時も


「そうか。そんな運命的な話もあるんだなぁ。」


と驚いたように呟いていた。幼い頃からパパっ子で、その日学校であったことを一所懸命に報告する鈴の話を、嬉しそうに聞いてくれた父の姿が思い出された。


しかし、瞬く間に時は流れ、腕時計に目をやった大輔が


「もうこんな時間か、お母さんが心配してるだろう。そろそろ行こうか。」


と立ち上がろうとした時だ。


「お父さん、ちょっと待って。まだ大切な・・・一番大事な話が残ってるの。」


そう言って、自分を見る娘の表情に感じるものがあったのだろう。大輔は腰を下ろした。


「お父さん。なんで・・・なんでお母さんを裏切ったの?」


そう言って、真っすぐに自分を見る娘の視線を、大輔は外す。


「あの日、学校から帰って来たら、仕事に行ってるはずのお母さんがいて、『お父さんと離婚したから。あの人は不倫をしていて、私と鈴を裏切ってたのよ。だから今日限り、この家を出て行ってもらったから。』って。でも私は、お父さんがそんなことしてたなんて、どうしても信じられなくて。だからお父さんに話を聞きたくて、何回もお母さんに、お父さんと会わせて欲しいって頼んだけど、ダメだった。あんな男は、あんたの人生に必要ない。忘れなさいって。」


「・・・。」


「でも今回、こうやって、連絡が取れて、やっと会えて・・・今更の話かもしれないけど、私はお父さんの気持ちが知りたいの。自分が結婚という大切な節目を迎えた今だからこそ、聞きたいの。」


そう訴えるように言う娘の顔を、大輔は少し見つめた後、徐に口を開いた。


「あの日、いつものように出勤しようとしたら、君のお母さんに呼び止められた。話があるから、座って欲しいと。夜にしてくれないかと言ったら、会社には今日は欠勤すると連絡してあると言う。何を勝手なことを言おうとしたら、いきなり書類を突きつけられた。お母さんが興信所に依頼して得た、私の不倫の証拠だった。」


大輔の口調は淡々としていた。
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