揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
「ごめんなさい、大きな声出しちゃって。私が相談したのに。」


その空気に、慌てたように鈴が謝る。達也が穏やかな笑顔で首を振ると、鈴はホッとしたように達也に身を預ける。


「達也、大好き。」


そう言って甘える鈴に、達也はいつものようにはにかんだ笑顔で答える。しばらく、そうしていた2人だったが、やがて


「疲れちゃったなぁ。」


達也の腕の中で、鈴がポツンと呟いた。


「ごめんね、私だけが忙しいわけじゃないのに、こんなこと言って。でも、疲れちゃった。私、やっぱり営業向いてないかも。」


「鈴・・・。」


そんなことを言う妻に、達也が掛ける言葉を探していると


「ねぇ、久しぶりに温泉でも行って、のんびりしない?」


鈴が言い出した。


「そうだな、今月は3連休あるしな。近場の温泉なら、まだ取れるだろ。よし、ネットで見てみるか?」


「うん。」


達也の言葉に、鈴は嬉しそうに頷いた。


学生の頃から、旅行好きだった達也は、穴場の温泉地にも詳しかった。そんな夫が連れて行ってくれた宿は、こじまりとし、鄙びており、3連休の喧騒とは無縁の穏やかな雰囲気だったが、湯も料理も、鈴を十分満足させるものだった。


「達也の連れて来てくれる所に間違いはないね。」


「そっか、ならよかった。」


部屋から見える紅葉を、寄り添いながら、2人は眺めていた。


「前にも言ったけど、俺、本当は旅行代理店に就職したかったんだ。落ちちゃったけど。」


と苦笑いの達也に


「よかった。」


鈴はポツン。


「えっ?」


「だって、達也がその旅行代理店に入ってたら、私達再会出来なかったじゃん。」


「鈴・・・。」


「神様がちゃんと、そういうふうに導いてくれたんだよ。達也も私も今の会社に。」


「そうだな。」


ゆっくりと穏やかな時間が流れて行く。2人はその流れに、静かに身を委ねている。


「お陰様で。」


「うん?」


「久しぶりにのんびり出来た。達也とずっと一緒に居られて、私の達也メーターもフルアップチャージされたし、これで年末に向けて頑張れる。達也、ありがとう。」


「ああ。」


見つめ合った2人は、そのまま、唇を重ね合う。幸せな時間だった。
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