揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
こうして、怜奈を初めとした親しい友人達と離れ、1人大学の門をくぐった鈴。


入学式に、新調したリクルートスーツに女子らしいスカートで臨んだ鈴は、やはり真新しいスーツに身を包んだ、男子の姿を見て


(やっぱりこれが自然だよな。)


と頷いていた。これから4年、恋の為だけに、大学に通うわけじゃないけど、でもその面は積極的に行こう。鈴は決意を新たにしていた。


キャンパスでは、既に華やかなサークルの勧誘合戦が繰り広げられていた。サークルに入ることは、大学生活を送る中で必須と、鈴は考えていたけど、高校時代は部活に入っていなかったし、あまりにも数や種類が多くて、自分が何がやりたいのかが、サッパリまとまらず、少し時間がかかるかなと思いながら、この日は帰路についた。


帰りの電車の中で、LINEを確認すると、怜奈からメッセージが。やはり、顔見知りが誰もいない状況で、早々に帰って来たそうだ。


(高校までと違って、間口が広いからね。友達作るのも、簡単じゃないよね・・・。)


鈴は、フッとため息をついた。


自宅に辿り着き、鍵を開け、中に入る。自室でスーツから普段着に着替え、居間に入っても迎えてくれる人はいない。


鈴が中学2年の時に両親は離婚。父親が家を出て行き、以来母親と2人暮らし。母の良子(りょうこ)は昔から家庭より仕事優先主義で


「家事も育児も夫婦分担が当たり前。」


と言っていたが、鈴の目から見ても、その負担は、明らかに父の方が多かった。昔と違い、今は授業参観などもほとんど、土日に行われるが、顔を出してくれる回数は圧倒的に父親の方が多かったし、子供の頃、3人で出掛けた記憶より、父にどこかに連れてってもらった記憶の方が多い。


そんな父親が、ある日、鈴からすると、唐突に家庭から姿を消した。


学校から帰宅すると、珍しく母親が出迎えてくれたと思ったら


「お父さんとは、今日離婚したから。」


と告げられ、呆然となった。聞けば、父の不倫が発覚し、即日家から追い出したそうで


「お父さんと話がしたい。」


と鈴がせがんでも


「あんな男は、もうあなたの人生には必要ない。忘れなさい。」


と、にべもなく言われるだけ。以来、父親とはもちろん、可愛がってくれた父方の祖父母とも会えなくなった。


父親がいなくなると、母親は以前よりは、鈴に寄り添ってくれるようになったが、仕事に対する意欲と責任感は相変わらずで


「当たり前のことだけど、今は女も生涯、社会で働く時代。ビジネス社会で通用するスキルを身に着けないとね。鈴もいよいよ大学生、これからは将来の為の勉強に力を注いでね。」


受験が終わったあと、母親からそう言われた。


(お母さんが言うことは、わかるし、大切だと思うけど、私は恋もしたい。お母さんだって、お父さんと恋愛の末、結婚したんでしょ・・・。)


そんなことを考えていた。
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