眠れない夜をかぞえて
「暑い~早く終わらせよう」

瑞穂が書庫の鍵を開けている時、聞いてみることにした。

「ねー」

「なに? 顔が深刻そうだけど、どうしたのよ」

「一ノ瀬さんがしーちゃんのことをしーって呼んでたの。知ってた? いつから?」

「……気になるの?」

「え……?」

「一ノ瀬さんがしーちゃんをなんて呼ぼうが、美緒には関係ないんじゃないの?」

「ただ、私はそう呼んでたかなって思っただけで」

「私は全く気にならなかったけど? 渉だったら気になったけど、一ノ瀬さんなら気にならない。意味が分かる?」

「……どういう」

「さ、暑いし早くやってしまおう」


瑞穂の言ったことの意味が、私には理解できない。

美緒は気にならなくて私が気になるのは、意識をしている訳じゃなくて、違和感を感じ取ったからだ。いつもと違うという違和感を。

デスクにファイルを運び、瑞穂としゃがんでファイルを整理する。

「ダイエットしなくちゃ」

瑞穂がお腹のあたりの肉をつまんで言った。

「私は普通だと思うけど? むしろ私の方が浮き輪になって苦しい」

「だめよ、ドレスが綺麗に着られないわ」

そうだった。瑞穂は渉と結婚するんだった。

「準備は進んでるの? 渉は私に何も話さないから分からないのよ」

「男だもん、いちいち報告しないわよ」

「そういうもの?」

「そうでしょ?」

渉の若さが心配だけど、しっかり者の瑞穂が傍にいてくれれば安心だ。

「手伝えることがあったら、遠慮なく言ってね」

「もちろん、お義姉さん」

「やめてよ」

瑞穂には言ってないけど、実のところとっても不安だ。

渉が幸せに出来るとか、そう言う問題じゃなくて、瑞穂と私が、うまく家族を作って行けるかということだ。

職場では、同僚で助け合い頑張っている仲間だ。

多少のことは目をつぶることが出来ていたが、家族となると話は別だ。

親戚付き合いや歳時など、育って来た環境で異なる認識や考えが出てくるだろう。

瑞穂にとって、舅と姑となる両親にだって、文句も出てくるだろう。

それを受け止めてあげられるだろうか。

さっきだって少し言い合いになりそうになっていたが、瑞穂がうまく話を切り上げてくれたから良かったものの、そうじゃ無ければどうなっていたか。
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