眠れない夜をかぞえて
この後、哲也は私の目を見てちゃんと告白してくれた。

いつでも気持ちのままに行動していた哲也。

初めての告白は、いくら抑えられないと言っても、直接会って言って欲しかった。

膨れた私に、哲也はキスをした。

それが哲也と私の初めてのキスだった。

『もっと、ロマンチックなのが良かった』

照れてしまって、つい可愛げのないことを言った私に、

『ロマンチック? どんなの? どんなのが良かった?』

『普通は聞かないのよ! 自分で考えて!』

とっても幸せな時間のはずなのに、哲也が正直に聞いて来たお陰で、私は怒って帰ってしまった。

『美緒、海に行こう』

突然誘われ、泳げる時間でもない午後に海に出かけた。

『美緒、好きだ。大好きだ!』

『ちょ、ちょっとやめてよ! 恥ずかしい!!』

哲也は海に向かって大きな声で叫んだ。

そして私を引き寄せ、強く抱きしめると、優しいキスをした。

ちょうど、夕日が海に沈む瞬間だった。

哲也は私の大好きなはじけるような笑顔で私を見たが、少し恥ずかしそうにもしていた。

私がロマンチックな告白が良かったと膨れたから、やり直してくれたんだと分かった。

哲也のことだ、友達に聞いたりしてリサーチしたに違いない。

一生懸命に頭を捻って捻出したサプライズだったはず。

『えへへ』

照れた哲也の顔も大好きになった。

今思えば子供だ。でも、本当に嬉しかった。

「哲也、お願い……もう一度、好きって言って」

耳に充てたスマホから聞こえる声は、20秒という時間。

消去をせずにまた保存をする。

身体が重いままシャワーを浴び、出勤の支度をする。

哲也がいなくても、日常は過ぎていく。

私は生きるために、仕事をする。

哲也がいなくなった時、私は、一緒に行きたいと本当に思っていた。

渉をはじめ、両親は私に付ききりになり、夜眠る時は交代で見張っていた。

何とか大学を無事卒業できたのは、家族、哲也のご両親、友人のおかげだ。

たったの一か月で私の体重は10キロ近く落ち、生理も止まった。

精神的な要因だと言うことで、様子を見ることになった。

それから一年かけて、日常を取り戻して行った。


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