眠れない夜をかぞえて
そして本当の最後。お墓から近い哲也の実家による。これで最後になると思う。

「突然ご連絡してすみません」

「いいのよ、あがって」

「おじゃまします」

哲也に似たお母さんが出迎えてくれ、哲也に似たお父さんが仏壇で一緒に手を合わせた。

「おじさん、おばさん……お話が」

私には二人に言うことがあった。それはとても勇気がいることだ、ご両親は悲しんだりしないだろうか。

「美緒ちゃんの話を聞く前に、私から話をしてもいいだろうか」

私の話を遮って、おじさんが言った。

「はい」

「……美緒ちゃん、もうここへは来てはいけないよ」

「え……?」

「美緒ちゃん、好きな人が出来たのね?」

おじさんに続きおばさんも何を言い出すのだ。

「おばさんには分かるわ。美緒ちゃん、とてもいい顔をしてるの」

おばさんは私の顔を見て、本当に嬉しそうに言った。住職と同じことを言う。そんなに私の顔は辛気臭い雰囲気だったのか。

「美緒ちゃんには感謝しかないよ。哲也は、美緒ちゃんを好きになって、恋を知って旅立った。心からお礼を言うよ、ありがとう、美緒ちゃん」

おじさんもおばさんも泣いていた。その涙は、哲也を忘れてしまうことの悲しさじゃなく、本当に私のことを思って流してくれた涙だった。

哲也が亡くなって、私が普通に生活出来るようになったころ、ご両親には哲也を忘れて、自分の人生を生きなさいと、何度も言われていた。

哲也の死を受け入れきれていなかった私は、また、精神的に不安になって行った。

それから今までずっとこうして見守ってくれていた。

私がここに来ることで、私は心の安定を図ることが出来ていたけれど、ご両親は私を見ることで、悲しみが癒えなかったのではないだろうか。

私のしてきたことは、ただの自己満足で、ご両親や私の家族、そして、哲也も安心して眠ることが出来なかったのではないだろうか。

自分だけが、眠れない夜が続いていると思っていたのではないだろうか。

私はなんと自己中心的だったのだろう。

帰り際にもう一度仏壇に手を合わせる。

「哲也もやっとゆっくり眠ることが出来るのね。ごめんね……心配を掛けちゃってて。今まで見守ってくれてありがとう」

哲也に辛い思いをさせてしまった7年間。これからはゆっくり休んで欲しい。それが私の最後の思いだ。


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