私の彼は上司で10歳年上で転勤が決まりました【完】
そうしてるうちに、発車メロディが流れ始めた。

「七星、ごめん、行かないと……」

誓くんは、そっと腕をほどいて、横に置いてあったキャリーバッグに右手をかける。

私は、とっさに、誓くんの左腕にしがみついた。

「ダメだよ、七星。最終だから、これに乗り遅れるわけにはいかないんだ」

誓くんは、自分の腕から私の手をほどいて、代わりに左手で私の手を握った。

そのまま手を繋いでいるのに、誓くんと荷物だけが、新幹線に乗る。

手は繋がってるのに、新幹線とホームの間のわずかな隙間が、私たちを隔てる。

車掌さんのアナウンスがあり、発車ベルが鳴った。

と、同時に、誓くんは、握っていた私の手をほどいた。

やだ!

そう思った私は、とっさに誓くんの手を追いかけた。

ドン!

「ってぇ……」

飛びついた私を抱きとめた誓くんは、腰をさすっている。

どうやら、横にある手摺りに腰をぶつけたらしい。

「ごめん、誓くん。大丈夫?」

心配になった私が尋ねると、

「バカ!」

と怒声が返ってきた。

「どうするんだよ!」

誓くんがそう言うと同時に、新幹線はガタンと揺れた。

「あ……」

私は、振り返って、呆然ときっちりしまったドアを見つめた。

「閉まっちゃった」

呟く私に、誓くんは、さらに畳み掛ける。

「閉まったどころじゃないだろ! もう動いてるよ! 七星、どうするんだよ」

「どうしよう」

誓くんを見上げる私は、この状況より、この状況に陥ったことで、誓くんに嫌われることの方が怖かった。

絶対、呆れたよね。

そう思った私は、そのまましょんぼりとうなだれる。
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