俺様アイドルが私の家に居座っている。


「おい! 見たか?」
「見たかって、何を?」
「見てねーのかよ! いつも散々つぶやいてるくせに、こういうときはアプリ開いてないのな」
「なんでそんなに私のアカウント監視してるわけ!?」


非公開にしようとつぶやきアプリを開くと、オタクの阿鼻叫喚があふれかえっていた。


「え? 今日なんか出演情報あったっけ……」
「フン、ねーよ。オレ様の名前で検索すれば」
「映画の主演―――――!?」
「さえぎんな」


一瞬だけ不満げな顔をしたが、すぐにいつもの得意げな表情に戻る。


「遂に情報解禁だぜ。お前のそのあほ面見たかったからずっと黙ってたけど、傑作だな」


性格悪いと罵りたかったが、実際私は放心状態で、とんだおまぬけに見えるに違いない。


怜の、主演映画。


「お、おめでとう……」
「おう。祝儀は焼肉弁当でいいぜ」
「あ、うん、そうだね」


嬉しさのあまり言われるがまま配達アプリを開くと、「おい」と横から携帯を取り上げられる。


「冗談だっての、お前俺のことどんだけ好きなんだよ。
今日の夕飯は?」
「え、質素だよ。いつも通り焼き魚とご飯とお味噌汁。お祝いには向いてない」
「いーよ。食べたい。せいぜいオレ様の主演映画決定の喜びにでも浸ってろ」


言葉遣いは乱暴だけど、用意しなくていいってことか。
些細な優しさに気づけないほど頭がいっぱいの私は、急いで公式サイトを確認する。


「へえ、ラブコメなんだね」


少女漫画にそこまで詳しいわけではないが、名前は聞いたことがある。
漫画アプリでいつも上位にいるような、結構有名な作品だ。


「原作読んだけど面白いな。普段漫画なんて全然読まねーけど、読むのも撮影も楽しかった」
「え? 撮影終わってるの?」
「一昨日クランクアップ。映画のサイトは随分前に公開されてたけど、主演は今日お披露目だったってわけ。
驚いただろ」
「驚いた……ってええ!? 公開日!」
「そ。オレ様の誕生日」


キャスト発表から約二か月で公開。撮影が終わっているとはいえ早すぎる。

しかもこのPVの音楽、間違いなくニューアレの新曲でしょ……!

興奮が収まらず、私は白旗のように右手を挙げた。


「怜、ごめん、ひとりではキャパオーバーです」
「しっかりつぶやいとけ。タグも忘れんな」
「もう非公開にしたから怜は監視できないけどねー」
「あ!? おい戻せ!」


やだよ、私だけ心の声が駄々洩れだなんて、ちょっとずるい。


『今日はいい日だし、怜の誕生日も絶対いい日だわ』

つぶやきに若葉からすぐいいねが飛んできて、『やったね!!!』とリプライをくれた。


『最低十回は観に行こうね』
『八回なら付き合うよ』


そんなに付き合ってくれるの、と思わず笑う。


「そんなわけだから、お前その日予定入れるなよ」
「その日? 公開日?」
「たりめーだろ。一緒に行くぞ」
「……え?」


マンション中に私の絶叫が響き渡ったことはいうまでもない。
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