君と恋を始めるための温泉旅館
プロローグ
私は昔から、この街が嫌いだった。

山形県の内陸部に位置する、ド田舎。

一番近いコンビニまで、車で二十分。

最寄り駅まで、車で四十分。
バスは、1時間に1本。

昼でも人通りは少なく、会社や企業も何もないので、地元以外の人間がスーツで歩こうものなら泥棒扱いされる始末。

あるものは、畑、田んぼ。

古びた温泉街。

そして、山、山、山。
ひたすら、山。

盆地のため、夏は暑いくせに、冬は引くほどの雪が降って身動きが取れなくなるような、そんなどうしようもなく不便なところ。

自然豊かと言えば聞こえはいいだろうが、ずっと住んでいる者からすればつまらなく、刺激も何もない光景にほかならなかった。
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