君と恋を始めるための温泉旅館
再会と始まり
地元に出戻って、一週間。

ただ実家にいるわけにはいかないと、一時間一本のバスを使ってハローワークに数日通ってみたものの、この街では車通勤が暗黙の了解。

自転車で通える範囲に一般企業はないし、運転免許自体は大学生の時に取得したけれど、東京の会社を衝動的に辞めてきた私に、車を買う財産などなかった。

面接の予約の電話をしても、車通勤ができないとわかった途端に、面接にこぎ着ける前にお断りされてしまう始末。

どの企業でも、お祈りメールすら貰えない。


「はあ……」
 

そんなこともあり、実家から徒歩五分の距離にある、近所の温泉旅館街を坂の上から見下ろしながら、ひとりため息をついていた。

東京に戻ったほうがいいんだろうな、本当は。

田舎の不便さを痛感した分、強く感じる。

私だって、あのキラキラした街に、帰れるものなら帰りたい。

でも、まだ……。
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