結婚ノすゝめ
不思議な二人
かくして始まった榊さんの美の追求。


毎日サロンに通うのと同時に、家でする筋トレやストレッチ、そして早朝と夜のジョギング。半身浴のやり方から、お肌のお手入れの仕方まで、細かく丁寧に教えてくれる。

やる事はたくさんあったけれど、わかり易いからどこか楽しくて。なるほどプロフェッショナルな仕事というのはこういうことを言うのかと、ただひたすら尊敬する毎日。


田宮さんは忙しいらしく、1週間ほど自宅には帰ってこなかったから、ご両親への挨拶をどうすれば良いか、メッセージを送っておいた。

既読にはなったけれど、返信はないから。
きっとお忙しいのだろうと思う。


『借金の方は全て整理がつきました。』

真崎先生から連絡がきて、S Pの方が外れた1週間後の土曜日。会社も休みだからと初めて行ってみたビレッジ内のフードショップ。


…一人でお出かけが久しぶりかもしれない。
周囲にわからない様にとはいえ、今までS Pの人が居た。
会社からの帰り道はどこかに寄ってしまうと帰宅までに時間がかかるから、申し訳ない気がしてまっすぐ帰宅していたから。


今までも気にはなっていたんだけれど、ハイソな雰囲気に気圧されてどうしても足を踏み入れられなかった。

けれど…きっと売っている物が一流な感じがして。榊さんプロデュースの下で美に向かって邁進している今、やっぱり食も質の良い物摂った方が良いのではと思ったから。


案の定、野菜も調味料も何もかも、高い。
けれど、ぼったくりというわけではなくて。

これでも八百屋の娘の端くれ。野菜の良し悪し位見てわかる。

とにかく、どの野菜も鮮度抜群だし一つひとつ丁寧に農家さんが育てたものだと思う。どの野菜にも誰が作っているのか、写真とQ Rコードがついていて、育て方や肥料の情報まできちんと確認できるようになっている。

今は7月だから…パプリカやトマト、ズッキーニ…ここに売っている夏野菜でラタトゥイユを作ったら物凄く美味しそうだよな…。
ウズウズしながら、財布と相談すること15分。

徹底管理をされた新鮮な野菜達が如何に美味なのかを知りたいという、八百屋の娘としての性に勝てず、結局一通りの材料を籠に入れてレジへと運ぶ。


「いらっしゃいませ。」と挨拶する店員さんは、どこぞのソムリエの様な出立で、財布を握りしめ、「いざ勝負!」的な勢いの自分が恥ずかしくなり、思わず俯いた。


「失礼ですが、お客様はビレッジ内にお勤めかお住まいですか?」

「え…?は、はい…。」

「そうでしたか。我がショップはキャッスレス化を進めておりまして。徹底した情報管理の元、網膜認証システムを採用しております。網膜認証でご本人を特定し、請求はお住まいであればお部屋へ月1回まとめて請求させていただき、口座から引き落としすることができます。また、お勤めであればお給料から直接引き落としも可能でございます。いかがいたしますか?」

「え、えっと…。」

「ビレッジ内にお住まいの方は全員登録されていますから、利用して大丈夫ですよ。」


躊躇した私の横にスッと人が立った。



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