ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜


 3時半頃。
 5分ほど席を外していた本田さんが戻ってきた。
「美里ちゃん、手、出して」
 中村さんが言われた通りに手を出すと、本田さんがその手の上にチョコレートを乗せた。
「ちょっとは息抜きしないとね」
 中村さんは、ミスをした後、一度トイレに立っただけで、ずっと真剣にパソコンに向かっていた。
 本田さんは、多分、コンビニにわざわざチョコレートを買いに行ったんだろうと思う。
 のど飴は常備しているらしいけど、チョコレートや他のお菓子を持っているのは見たことがなかった。
「千波せんぱあい……ありがとうございますう〜」
 中村さんが目をうるうるさせている。
 本田さんは「おおげさだなあ」と言って、中村さんの頭をよしよしとなでた。
「あ」
 今度は俺の方に向いて、
「はい、須藤君にもあげる」
 にっこりと笑顔で、俺にもハイカカオのチョコレートをくれた。
「頑張ってるご褒美ね」
 よしよしと、俺の頭も、なでる。
 意外な行動に、あ然としてしまう。
 でも。

 ……気持ちいい……。

 本田さんの手はあったかくて、そのあったかさがじわじわと広がっていく。
 顔が、熱くなった。

 ハッとした本田さんは、慌てて手を引っ込める。
「あっごめん!つい美里ちゃんと一緒にしちゃった。ごめんね須藤君」
「……いえ、ダイジョウブです……」
 顔を見られなくて、手の中のチョコレートに目を落とす。
 本田さんは、あははと笑った。
「成人男性にすることじゃなかったよね〜」
「千波先輩、私にももう一回してください」
「はいはい、頑張ってね美里ちゃん」
 本田さんは、また中村さんの頭をなでている。

 まだ、本田さんの手のあったかさが頭に残っている気がしていた。
 顔も、まだ熱い。
 嬉しいような、恥ずかしいような、くすぐったいような、なんとも言えない感じ。

 亡くなる前に会いに行ったばあちゃんに、頭をなでられたことを思い出した。
 あの時の感じと、似ている。

「須藤君?大丈夫?」
 本田さんが、ぼうっとしている俺の顔をのぞき込む。
「あ、はい……ええっと、チョコいただきます」
 本田さんが近くて驚いたからか、胸が騒がしい。
 チョコレートを口に放り込んで、なんとか落ち着こうとする。
 ハイカカオは苦くて、頭がすっきりした気がした。



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