ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜
15. 6月・2回目

千波



 仕事が忙しい。
 立て続けに案件が入ってきて、残業続きの毎日だ。
「で?デートもまともにできてない、と」
 休憩スペースで、久しぶりに恭子と落ち合っておしゃべりしている。
 こんな時間がないと、やってられないくらい忙しいのだ。
「帰りに夕飯食べたりとかはするんだけど、疲れちゃってるからすぐ帰ろうってことになるの」
「なるほど。じゃあ、千波が心配してたあの件は?」
「……まだ、です……」
 私は、ぐっと言葉に詰まった。

 『あの件』とは。
 キスの先にある、あのこと。

 実は、私は一度しか経験がない。
 学生の頃に付き合った人と、一度だけしたことがある。
 その人は、私のことを大切にしてくれていた。
 でも、一度した後、一緒に眠ろうとしたけど、眠れなくて。
 その時、何故かわかってしまった。

 私、この人の隣では眠れない。

 それは、私にとって、心を開くことができない、ということ。

 そう思ったら微妙に態度に出てしまって、相手にも伝わってしまい、ギクシャクし出して、結局別れた。

 須藤君の側では、一度眠れている。
 今まで他の人に感じたことがない、安心感はある。

 でも、不安だった。
 私にそういう経験があまりないことは、今までの話から、おそらく彼も予想しているだろうけど。
 一度だけ、とは思っていないんじゃないだろうか。
 その一度だって、なんだかわからないうちに終わってしまって、痛みと体に残る違和感しか記憶が無いのだ。
 恭子は「そんなの黙って任せておけばいいんだって」と言うんだけど……。




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