新人ちゃんとリーダーさん

 怒っていたのかと思えば急に叫んで蹲って、そしてデレる。情緒の安定していない彼もまた愛おしいと思うのは私が盲目になっているからだろう。今日もまた、私は彼に振り回されてる。
 なんだかよく分からないけれど、彼の怒りは鎮火したみたいだったから、「それはそうとお見合いの本番はこれからなんですよ」と肉眼でも見えそうな勢いでハートを飛ばして甘えてくる桜雅くんの手を引っ張って、ハリーさんがいる寝室へと向かう。

「ただいま、ハリーさん」

 寝ているであろうハリーさんに一声かけて、お嫁さん候補のルビィちゃんをハリーさんが最初に住んでいたお家(ゲージ)に移す。初めての場所だからか、はたまた、消毒した際の匂いが気になるのだろうか。熱湯で煮沸消毒もしたけれど、ハリネズミは匂いに敏感な生き物だ。
 やっぱり別のお家(ゲージ)にすれば良かったかなと思いつつ、ハリーさんのお家の隣にルビィちゃんのお家をおいて様子を見ようと決めた。

「お」
「あ」
「珍し。出てきたぞハリーさん」
「出てきましたね、ハリーさん」

 瞬間、もぞりとハリーさんが毛布の中で動いて、ひょこりと鼻先を出した。それが見えたわけではないだろうけれど、偶然なのか、用意したルビィちゃん用の毛布に彼女は隠れず、ハリーさんのお家がある方へと歩いて行って、ひくひくと鼻をひくつかせている。

「ゲージ越しでも匂いとか分かるんか」
「どう、なんでしょう……視覚が残念な分、嗅覚はすごいらしいですけど」

 桜雅くんとふたり、並んで彼らの行く末を見守っていれば、ハリーさんは完全に毛布から出てきて、ルビィちゃんのお家のある方へと歩いて行って、ひくひくと鼻をひくつかせ始めた。

「……見合い、成功か……?」
「一応、一緒のお家に入れて激しい喧嘩をしなければ大丈夫だと聞いてます」
「へぇ」
「なので、今日は様子を見て、明日床材を一部交換して、大丈夫そうなら夜に会わせてみます」

 そうか。
 やけに静かなその一言が鼓膜に張り付いて、何気なく彼の方を向いた瞬間、ふに、と口に柔らかい何かが触れた。
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