偽婚約者の恋心~恋人のフリが本気で溺愛されています~
それから 何日か経ったある日。

俺は仕事上、ベリーヒルズビレッジを良くするために、時間のある時は出来るだけ一人で、ベリーヒルズビレッジにある、ショッピングモールの内の店や飲食店、ホテル、オフィスビル、病院などなどを視察して回る。
自社ビルをお客様目線で把握するために、お客のフリをして視察する方が本当の様子が分かるからだ。視察というより、偵察と言った方が正しいかもしれない。

以前一度、勤務時間内に秘書や部下を連れて視察に行くと、変にもてなされてしまい、
本当の店舗の様子が分からなくなってしまったことがあるからだ。

この日も一般客のふりをして、一人でショッピングモールにある人気のワインバーに入った。

今日は混んでるな。

そう思いながら空いている席がないか見渡す。
するとアルバイトらしい若い元気な定員が声を掛けてきた。

「いらっしゃいませ!お一人様ですね。カウンター席へどうぞ!」

俺は4つほど椅子が並んでいるカウンター席に案内された。カウンター席にはまだ客はなく、
入り口に近い方の1番端の席を選んだ。

カウンター越しに落ち着いたバーテンダーが、

「いらっしゃいませ。」

と言ってメニューを差し出した。

カウンター席に一人で座り、メニューを開くと、ほどなくして、女性の二人組が店に入ってきた。

若い元気な店員が

「すいません。だだ今、テーブル席がいっぱいでして。カウンター席でよかったらどうぞ!」

女性のうちの一人が、俺が座っている席の横を通る時、

「すいません。」

と軽く会釈した。
ふと見ると、いつも気になっていた彼女だった。

二人の女性は、俺との間の席を1つ空けて並んで座った。

俺は、まずいとは思いながらも、聞き耳を立て、彼女達の会話に全神経を集中させていた。

ストーカー被害を受けていること、その相手が支店にとって大口のお客様なので、断り方に悩んでいる、課長は助けてくれない ということが分かった。

俺は、かなり飲んでいる彼女がちゃんと帰れるか気になって、二人が会計を済ませると急いで後を追いかけた。タクシー乗り場でタクシーを拾い、二人が乗り込んだのを見て安心した。どうやら友達はとてもしっかりしているようだ。

俺はその様子を離れた所で見ながら秘書に電話をかけた。

「すまない。調べて欲しいことがある。」
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