偽婚約者の恋心~恋人のフリが本気で溺愛されています~
繋いでいる手が熱を帯びる。
私の心臓が早鐘を打つ。
蓮さんは、繋いでる手の親指で私の手を優しく撫でた。力の入っていた私の手はいつの間にか力が抜けていた。私はこの状況にいっぱいいっぱいで、でも、嫌じゃなくて…されるがまま、じっとしていた。すると、また蓮さんが、

「風乃、抱きしめてもいい?」

「えっ?あっあの…その…。」

「それ以上のことはしない。」

「・・・はい。蓮さんを信じます。」

蓮さんの言葉に驚いたが、自分にも驚いている。今までの自分なら、付き合ってもない人に絶対に「はい」なんて言わなかっただろう。でも、今自分でも不思議なほど、彼を受け入れている。蓮さんの事を好きになっている自分がそうさせている。

蓮さんが動くとベッドがギシッと音を立てる。
蓮さんの逞しい腕が伸びて私の身体を包み、私は彼の厚い胸板に顔を埋める。
力強く抱きしめられているのに、痛くはなく優しく包み込まれている感覚だ。
生まれて初めて男の人に抱きしめられ、心臓が壊れるんじゃないかと思うほど早くなっているのに、なぜか不思議と安心する。守られているという感覚が直に感じられ、とても心地いい。人に抱きしめられるというのはこんなにも心地いいものなのか。彼の腕の重みは、なぜ私をこんなにも安心させるのか。私は蓮さんの腕の中でいつの間にか眠っていた。
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